銀行の国債離れが示す金融緩和の限界

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三菱東京UFJ銀行が、財務省の国債入札に有利な条件で参加できる資格である「国債市場特別参加者」という資格を返上する見通しとなった。日銀が大量に国債を買い始めて以来、国債の金利が下がり始め6月10日には長期金利はマイナス0.15%になっている。つまり10年間この国債を持つと、利子がもらえるのでなく利子を払わなければならない。こんな国債でも売れるのは、日銀が購入価格以上の価格で買ってくれるからだ。

裏返せば、日銀が買わなくなったら、国債は間違いなく暴落する。年間80兆円マネタリーベースが増えるように日銀は国債を買っているのだが、いつまでも買い続けられるわけがなく、あと2年が限界だと言われている。いつか日銀が国債を買わなくなって、国債が暴落すれば、国債を保有している金融機関は大損害を被る。金利が下がれば下がるほど、国債価格は上昇することとなる。現在の金利低下は国債バブルと言ってよい。

バブル崩壊の前に国債購入を控えようという三菱東京UFJ銀行の方針は理解できる。しかし、これは同時に金融政策の限界を示しているとも言える。もし日銀が金利のマイナス幅を拡大し,国債価格の更なる上昇(国債バブルの更なる過熱)をさせるなら、金融機関の国債離れが更に進む可能性があるから日銀が金利を更に下げるのは難しくなった。

国債購入を更に加速するのであれば、購入の限界に達するまでの期間が更に少なくなることを意味するだけだ。ETF(上場投資信託)の購入拡大の可能性はあるが、株式相場への露骨な介入として批判される可能性があり、いずれにせよ100兆円規模ではとても行えないし、景気下支え効果は限定的だ。

結局アベノミクスの3本の矢のうち、第1の金融政策はもうこれ以上無理であり、第3の民間投資を喚起する成長戦略だが、アベノミクスで民間投資は喚起されていないのでこれも無理ということだ。第2の財政政策だけは明らかに効果があった。実際10.3兆円の補正を組んだ2013年度の経済は好調であった。好調な経済を取り戻すためには、財政出動しかない。将来へのツケを増やすという人がいるが、GDPも増えるので国の借金のGDP比はむしろ減少し将来へのツケは減る。

財政出動によって金利上昇を心配する人がいる。ソシエテジェネラル証券チーフエコノミストの会田卓司によれば、財政支出の拡大を国債でファイナンスし、ネットの資金需要が5兆円程度(GDP対比1%程度)増加すると、長期金利は0.065%上昇、10兆円なら0.13%程度の上昇だそうである。この程度の金利上昇は金利のマイナス幅を小さくし国債バブルを縮小させるのであるから、むしろ好ましいと言える。

「金利上昇=悪」という主張の人がいる。質問主意書に対する政府の答弁書にもそのようなことが書かれていた。しかし、現状では金利上昇は善と言わざるを得ない。資金需要が出てきて金利が2%位まで上昇してきたら、こんなよいことはない。

2年で2%のインフレ率を実現すると言った日銀だが3年以上経過しても目標達成がいつになるか見通しが立たない。三菱東京UFJ銀行の「反乱」により国・日銀・金融機関の3者もたれ合いの構図が崩れ始めた。傷が深くなる前に、財政出動で景気を回復させ、金融に過度に頼らなくてもよい経済状況を一刻も早く作り出すことが望まれる。

小野盛司

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