漫画思想【03】彼の戦う理由 ―『からくりサーカス』―

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 今回も藤田和日郎先生の作品から。題材は『からくりサーカス』です。この作品も週刊少年サンデーで連載されていた名作です。単行本は全43巻です。

子供を助ける大人のキャラクター

 すでに読んでいる方にはお分かりいただけると思いますが、未読の方はまずは単行本の3巻まで試しに読んでみてください。
 物語の序盤で、メインキャラクターである加藤鳴海(かとう なるみ)19歳と、才賀勝(さいが まさる)11歳が出会います。二人は初対面なのですが、勝が何者かに誘拐されそうになるところを、鳴海が助けるところから物語は動き出します。見ず知らずの子どもを助けるために戦うという鳴海のキャラクターが、この作品の大きな魅力となっています。
 追っ手の猛攻を受け、勝が、死ぬなら自分一人で死ねばよかったと言ったとき、鳴海は勝へこう言うのです。

 あきらめるな! おまえはまちがっちゃねえんだよ。キツい時には「助けて」とどなれ!
ハラが立ったら悪態をついてやれ!! おとなしくかっこつけてあきらめんな、あがいてあがいてダメだったらそん時ゃ・・・・・・ にっこり、笑うしかねえけどよ。

 このセリフには、まちがいなく人生における真理があります。一見してがさつで乱暴に見えますが、鳴海は物語開始の時点ですでに、成熟した立派な大人なのです。

自分のために他人を助けるということ

 ヒロインの しろがね[才賀エレオノール]は、鳴海へ勝を助ける理由をたずねます。そのとき鳴海は、「オレのためさ。オレは自分のコトしか考えてねえの」と答えます。それを受けて、しろがねは、「おまえの「理由」は私にとって納得できるな」と応えるのです。
 ここで二人は似たもの同士だと思えてしまうのですが、その内実には大きな差があります。しろがねは、自分が空っぽな人形であることを自覚しており、それゆえに勝を助けることで自己のアイデンティティーを保とうとしているのです。一方、鳴海はしっかりと自分の考えを持った大人であり、それゆえに理不尽に子供が苦しめられるのが許せないのです。勝を助けるのは自分のためだとしても、そこには二人の“自分”を巡る大きな違いがあるのです。
 そのため、再度しろがねから勝を助ける理由をたずねられたとき、鳴海は転んだ子どもを自分で立ち上がらせて褒める母親を見ながら、「理由言ったって、おまえは信じねえよ」と語るのです。その母子を見守る鳴海の微笑みには、優しさがあふれています。
 そして物語が進み、しろがねが「私は・・・本当に、生きている人形なんだから」と告げるとき、鳴海は「おまえは人形なんかじゃねえよ」と応えるのです。
 勝を誘拐しようとする一味と戦い勝利し、脱出時の爆発を生き残り、勝は言います。「た・・・助かったんだ。助かったよ、鳴海兄ちゃん」と。そうして、最初の幕が下り、物語は次の幕へと続くのです。

合理的なキャラクターに生まれた変化

 鳴海の他に、もう一人紹介しておきたい人物がいます。本作の脇役ではありますが、ジョージ・ラローシュです。彼は、「しろがね-O」という年をとらない特別な存在です。「生命の水(アクア・ウイタエ)」を飲み人間を超えた能力を得た上で、さらに機械化による強化を成し遂げた人物の一人です。
 彼は仲間として登場するのですが、感傷的な行動を嫌い、任務に必要な情報を得るために子供たちに尋問まがいのことをします。彼はトムという少年に酷いセリフを吐く、いけ好かない奴なのです。ただし、彼の行動は非情ではありますが、ある意味で合理的です。敵を倒すため、人間であることを捨てた非情な存在として、彼は合理的に行動しているのです。
 敵の襲来時に彼は、「あとは私が、守ってやるよ。人間」というセリフを吐き、見事にやられて読者をスカッとさせてくれます(笑)。その後、別の人物が敵を退けます。そのとき子供たちのために戦う男の姿を見て、ジョージ・ラローシュの内面に変化が生まれます。

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西部邁

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