一人で泊まるラブホテルのススメ「実践編」 

ステップ3 「さあ君も極楽の平日で場数を踏もう!」

 
金曜日の夜、特に土曜日と祝前日の夜における「一人ラブホ」は最も激烈な競争であるが、ここを無事クリアーすれば「一人ラブホフリーク」初学者の段階も終了であろう。私など、初学者の頃なれば前述のような失態もあったが、今となっては土曜日の夜に円山町のラブホに「一人ラブホ」を敢行することは何ら難しいことではない。タイミングと直感で、大体入ることができる。
 円山町の坂道を徘徊するグロッキーな男性一名が私と同じく次々とラブホのフロントに入っては、落胆した表情で出てくるのを観て、「あ、一人ラブホの同志だな」と思う反面、「こいつはまだ素人だ」とも思ってニヤついてしまう。真の「一人ラブホフリーク」は各々のラブホの「土曜日朝のサービスタイム」開始時間を概ね把握しているので合理的な動線行動を採れるし、朝方にラブホから出てきたカップルを常にチェックしているので、スッとそこに入る。円山町だけで何百室という部屋があるのだから、1,2室の空きがないわけはない。そこを効率良く見付け出すのが「一人ラブホフリーク」上級者であり、一度「今日は一人でラブホに泊まる」と決めたら、それを曲げることは己の全面的敗北を意味するのだから絶対に譲ることはできない。

 ともあれ、まず初学者には何も激戦である週末や日祝前日を選んで「一人ラブホ」をする必要はない。滞在時間も長く、値段も破格に近い、「平日朝からのサービスタイム」をまず狙ってみてはどうであろうか。朝の5時くらいまで、しこたま一人で安居酒屋で酒でもかっくらい、それからチェックインして昼下がりまで眠る。誰にも邪魔されぬ、至福のときが待っている。午後3時か4時頃にむくと置き、大画面のTVでもつけると、今日の日経平均の終値とか、総理大臣がどうしたとか、どこだかの県で自動車事故があったとか、芸能人のスキャンダルとか、中東で爆弾テロがあったとか、そんなニュースが飛び込んでくることを知り目に、あなたの一日は今この瞬間から始まるのだ。平日の昼下がりにこれ以上の贅沢はあるか?

 こういった経験を重ねていくうちに、次第に貴方の性格にあったラブホテルが見つかってくる。無論、上記に書いたとおり、第一に優先される条件は滞在時間、チェックアウト時間、料金などであるが、徐々にそのラブホの個性や性質がわかってくる。ラブホ業界は大グループの寡占状態ではなく、中小の独立経営や小グループによる経営が多いため、経営者やグループの方針や個性が際立ってくる。フロント脇に置かれた無料貸出シャンプーやコンディショナー、バスアロマ、入浴剤のセンスや、ウェルカムサービスの内容、ルームサービス(食事)の内容、メンバーカードに登録(大抵100円~300円、良心的な場合は無料)することの特典はどのようなものか(即日特典を受けられるのかどうか)、無料貸し出しサービスにはどのようなラインナップがあるか、など、徐々にラブホの細部が気になってくる。
 ビジネスホテル然とした「ヤリ部屋、寝部屋」のみを追求した殺風景なラブホもあれば、髄を凝らしたサービスの数々を売りにしている「高級路線、レジャー路線、女性客重視のファッション路線」のラブホ、そのいずれの特性も取り入れた中間のラブホなど、ラブホの実際は多種多彩だ。ジャグジーに入りながら、このラブホは自分に合っているかどうか思いを巡らし、場数を踏めば必ず分かってくる。そのような楽しみ方も「一人ラブホ」の醍醐味だ。

 よく最近の居酒屋は「平日のランチ」に力を入れているという話を聞く。確かに、たとえば500円ワンコインとか780円とかの値段で、場合によっては赤字覚悟で豪華なランチを提供しているという。何故か。ランチが気に入れば、「夜のディナー」にその客がリピーターとして恋人や同僚、友人等を連れてきてくれるからだ。結果として圧倒的に客単価の高い「夜の部」でその居酒屋は昼の赤字を回収し利益を出している。
 ラブホの平日サービスタイムも、それと同じようなものだと思えば宜しい。場合によっては土曜日宿泊の半額程度で泊まれる「平日サービスタイム」を一人で満喫してから、気に入れば日を改めて夜にパートナー等と来ることだってできる。とはいえ、この国の「模範的労働者」が平日に夕方までラブホで寝ることは大変難しいが、そのぐらいを許容する有給休暇体制の整備が必要なのではないか。

 ラブホはもはや「人間のKOUBI」を主目的として「二人で泊る」施設ではない。人生の充実と解放を味わうために「一人で泊る」自由人の為の解放区である。昔「コンクリートジャングル」なんて言葉が流行った。「東京砂漠」なんて歌もあった。コンクリートに囲まれた大都市の中で、次第に人間性が失われていくことを嘆くニュアンスなのだろうが、そんなものは嘘だ。コンクリートの中にこそ、人間の自由と解放がある。窓もろくに全開にできない、採光の悪いコンクリートの中の一室、ラブホテルの空間こそ、人間が人間でいられる、その束の間の自由空間が存在しているのだ。

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西部邁

古谷経衡

古谷経衡評論家/著述家

投稿者プロフィール

1982年札幌市生まれ。立命館大学文学部史学科卒。猫派。著書に『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)、『反日メディアの正体』(KKベストセラーズ)、『ネット右翼の逆襲』『クールジャパンの嘘』(共に総和社)など多数。
Twitter @aniotahosyu|Facebook tsunehira.furuya
古谷経衡公式サイト http://www.furuyatsunehira.com/

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