乗数効果を否定する小野善康氏 ー 失われた20年の正体(その15)

政府債務は返済を前提としたものではない

小野氏の乗数効果否定論は、「政府債務は結局返済しなければならないものであり、家計もそのことを意識して(政府支出の増加によって自分の可処分所得が増えても)消費は増やさない」という前提のもとに成り立っています。
これは、論文中にも言及されているリカードの等価定理そのものですが、自己の可処分所得が増えた原因が政府支出の増加かそれ以外の要因か、個々の家計が区別できることを前提としており、常識的な生活感覚から見て極めて非現実的な机上の空論です。百歩譲ってその論理に従ったとしても、「当該政府支出が、将来にわたって支出額以上の効果が見込めるものであれば、返済の原資を現在の所得に限る必要はなくなるため、家計にとっても現在の消費を我慢する必要は無いはずだ」という反論が成り立ちます(民間・公共を問わず、「投資」とは本来そういうものです)。

とはいえ、こうした反論だけでは抽象的に聞こえるかもしれません。そもそも、「政府債務は結局返済しなければならない」という前提自体が非現実的なのです。
図1は、日本(1880~2012年)及びイギリス(1700~2012年)の政府債務または公的債務の長期推移を示したものですが、いずれにおいても、「政府債務は返済されずに増え続ける」のが現実の経済であることは明らかです。
これは、「ゴーイング・コンサーン(事業の継続)」を前提とした企業が事業の拡大と共に資産規模(従って通常は債務額も)を拡大するのと本質的には全く同じです。一民間企業以上に存続することが当然の前提で、通貨発行権も持つ政府であればなおさらでしょう。

【図1:日本及びイギリスの政府債務推移】

shimakura1

shimakura2

唯一、点線の円で囲った時期は長期にわたり債務が抑制されていますが、この時期はイギリスで金本位制が導入されていた時期とほぼ重なっており、現在とは事情が異なります。さらに金本位制下で政府債務抑制が必然的ではないことは、日本のデータからも明らかでしょう。
要するに、乗数効果を否定する小野論文は、その大前提がそもそも成立していないのです。

→ 次ページ:「「成熟経済化による長期不況」も非現実的な議論?」を読む

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西部邁

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コメント

    • アヴァトレード・ジャパン 丹羽広
    • 2016年 2月 05日

    島倉さん、

    ごぶさたしています。

    アヴァトレード・ジャパンの丹羽です。

    偶然ですが、本日が、乃木坂ワイン倶楽部ヴィラージュの最終営業日となります。お世話になりました。

    じつはわたくしも秘密結社的な経済学の研究会に属していて、小野さんの論文が話題になり、ちょっと探っていたところ島倉さんのブログにたどりつきました。勉強になります。ありがとうございました。

    乃木坂ワイン倶楽部ヴィラージュ
    オーナー呑むリエ 丹羽広

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