危ういデフレ脱却期待 −その虚ろな実情−
- 2014/3/30
- 経済
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しかしながら、CPIは消費税増税の影響も受けます。
例えば、消費税が3%から5%に引き上げられた1997年度は、CPIは前年度比2.07%上昇しました。前年度に駆け込み需要の影響があったことなども踏まえると、上昇分のほとんどは増税によるものと考えられます。
【図2:全国消費者物価指数(前年度比)の推移】
従って、BEIの動きについて実体的に評価する際には、こうした増税の影響を取り除いて考える必要があります。
例えば、仮に現在のBEI5年物が1%とすると、消費税は合計5%の引き上げが予定されていることから、
増税の影響を除いた事実上の期待インフレ率≒BEI1%-増税幅5%÷5(年)=0%
(あくまでイメージをつかんでいただくためのもので、実際の計算式は若干異なります)
となります。
これは、表面上のBEIは増税でかさ上げされた結果に過ぎず、事実上の期待インフレ率はゼロであることを意味します。
言い換えれば、BEI5年物とは「5年後の期待インフレ率」ではなく、あくまでも「今後5年間の期待インフレ率(の平均値)」であって、上記事例では5年間で5%の物価上昇が期待されているものの、それは全て消費税増税を織り込んだものに過ぎない、という訳です。
では、増税の影響を除いた「事実上の期待インフレ率」はどうなっているのでしょうか。
図3は、中期的なインフレ見通しの指標として、BEI4年物と5年物から算出した「5年後の期待インフレ率」と、BEI5年物と10年物から算出した「6~10年後の(5年間平均の)期待インフレ率」の推移を示したものです(増税の影響が及ばない2013年以降のデータ)。
前者は5月下旬でピークアウトしており、後者に至っては直近でほぼゼロパーセント(3月24日時点で0.01%)に落ち込んでいることがわかります(昨年10月以降発行分から付加された元本保証条項によって、残存期間10年の物価連動国債にプレミアムがついているとも考えられるので、後者については「実質マイナス」と評価すべきかもしれません)。
【図3:中期的な期待インフレ率の推移】
コメント
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現在の5年物のBEIが2%を優に越えているのに数値例で1%にする意味がわかりません。消費税の年割りも1%と被るので架空のわかりやすい例としても不適でしょう。
さらに三点、問題があります。
1. 8%までの消費税引き上げが織り込まれていても10%まで織り込まれているとは限らない。
実際、8%が織り込まれ出したのは消費税引き上げの話題が出た後ではなくもっと確実になってからです。
2. 水準よりも推移が大切。
BEIが上がっていればそれだけかつてより実質金利や実質賃金が、名目値の調整障害要因から逃れられるようになったということです。BEIは、単なる期待インフレに対する市場の評価であるとともに、市場や、市場を通じた実体経済に対して影響力を持つものだという点が重要です。
3. 旧物価連動国債と新発物価連動国債とでは市場の流動性などのプレミアが違いすぎる。
ずっと発行が止められていたことや、フロアの付け方など中身が変わっていることなどもあり、10年物と5年物とを使って6-10年の期待インフレを出すのは相当に信頼性に欠ける行為となります。
記事にあって信頼性に足る分析は4年先1年のBEIだけではないでしょうか。それが1%というところまで引き上げられた後は、安定した推移を続けている、そういった評価以上のものを引き出すのは無理があるように見えます。
コメントありがとうございます。
参考例は「BEIがプラスであっても実態として意味のある期待インフレ率がゼロになることもある」ということを数字で示したまでです。
従って、
1.言葉足らずだったかもしれませんが、本稿は「消費税が10%まで上がることが期待として織り込まれている」ことを主張しようとするものではありません。BEIについては「増税の影響を除いた(=増税の度合いに関わらず)中期的な期待がどうなっているか」が主眼であり、分析の焦点もそこにあることはご理解いただけると思います。
2.「水準より推移が大切」と指摘され、なおかつ「4年先1年のBEIだけは信頼に足る」とされるのであれば、4年先1年のBEIが昨年5月以降頭打ちで推移していることをどう評価されるのでしょうか。まさか、消費税増税の影響を受けている5年物BEIが右肩上がりであればそれで良し、という訳でもないでしょう。
3.記事の中でも述べているように、ご指摘のフロアの付け方の変更は、6-10年のBEIを実態よりも高めに出す方向に働いています。
従って、BEIがデフレ脱却期待の改善を示していることに疑義を唱えている私が論拠として用いることに、特段問題は無いと思います(いわば、相手の有利な土俵で結果を残している訳ですから)。
そもそも本稿でより重要なのは、最終節で述べた「経済回復のシグナルとしてのインフレ期待上昇に伴うはずの、家計の収入改善が実現していない以上、現状のインフレ期待上昇はポジティブに評価できない」という点にあり、BEIについての議論は、それを確認・補強するためのものに過ぎません。
インフレターゲット論の信ぴょう性やそれに基づく金融政策に対する評価も、そういった本質的な部分を押さえた上で行うべきではないでしょうか。