前回の記事では『<ポジティブ病の国、アメリカ』の内容を参考に、ポジティブシンキングの問題点について解説しました。簡潔に説明すると、ポジティブシンキングの問題点として、一面的なものの見方に陥ってしまいがちな点、特に物事に関して批判的な視点から眺めることや悲観的な考えに陥ることを禁じる等の問題について指摘しました。
頭の中の少数派を殺すな
フロイト流の精神分析の考え方では、ネガティブな感情や考え(ツライ、悲しい、苦しい、死にたい、自分は惨めだ 等)を否定して無理にポジティブに考えたとしても、感情自体を消滅させる効果はなく、意識の表面に現れないように抑圧するだけだそうです。その無意識に抑圧された負の感情は、鬱屈した形で表出することになり、もっと深刻な問題を起こす可能性すらあります。
とは言え、悪い出来事が起こったとき(恋人と別れた、離婚した、会社をクビになった、大怪我をした 等)に、ただひたすら悲観にくれているだけでは問題は解決しません。
では、そのどちらの事態にも陥らない有効な精神のあり方とはどのようなものでしょうか。様々な方法が考えられますが、私はマインドフルネスが良いと思います。マインドフルネスとは・・・Wikipediaのマインドフルネス認知療法の項を見てみましょう。
本療法は、心に浮かぶ思考や感情に従ったり、価値判断をするのではなく、ただ思考が湧いたと一歩離れて観察するというマインドフルネスの技法を取り入れ、否定的な考え、行動を繰り返(自動操縦)さないようにすることで、うつ病の再発を防ぐことを目指す。
つまり、このマインドフルネスの考え方は、ポジティブシンキングのように、心に浮かんできたネガティブな考えや感情を否定したり抑圧したりすることを禁止するわけです。ネガティブな思考を認め、かつ一定の距離を置いて付き合うのです。
私を観ている流動的な私
マインドフルネスで重要なことは、心に浮かんだ思考や感情について多面的に分析し(例 ネガティブなことにこだわってちゃだめだな、でも、ああいう大変な事があった後だからしょうがないな・・・等)、他の見方がないか考えてみることです(例 失業したが、よく考えるとこの仕事は向いていなかったかもしれない、大変だがもっと自分に合った仕事へと転職する良い機会だ・・・等)。
わかりやすくまとめると、第一に、より多面的に物事を捉えようとすること、第二に、思考の流動性を確保することにあります。
物事を多面的に捉えようと心がけることは、出来事や感情、考えと一定の距離を確保することと関係があります。出来事や感情と一定の距離を保つと、たった一つのモノの感じ方にとらわれることなく、現実と接することが出来ます。要するに行動や思考の主体としての自分と、主体としての自分を外から観察する客体としての自分の分離であり、その分離への強烈な自覚でもあります。
ユーモアや諧謔精神もバリエーションの一つと言えるかもしれません。あまりに一つのことに深刻に考えすぎている自分を客観的に見つめることで、その滑稽さを浮かび上がらせるわけです。
次に、思考の流動性の確保。これも非常に重要で、まさに思考の流動性の欠如こそがいわゆる括弧つきの「ポジティブシンキング」の問題点であると言えるでしょう。また、ネガティブな思考の問題点の本質でもあります。つまり、一つの視点や感情に囚われ、他の見方や感じ方、考え方を排除することが問題なのです。結果として、現実から乖離した気味の悪いポジティブシンキング(例 癌にかかったおかげで健康のありがたみがわかった!癌に感謝! 等)や逆にちょっとした出来事なのにあまりにも深刻に悩むこと、そのどちらをも回避するには思考の流動性を確保しておくことが重要なのです。
このようにポジティブ・ネガティブ思考は一見真逆に見えますが、実は思考の流動性の欠如という本質的には全く同一の問題を孕んでいるのだということが理解されたと思います。そして、この二つの思考の抱える同一の問題を解決するために有効な手段は、マインドフルネスの考え方、特に物事を捉える際の視野の多面性、そして思考や感情の流動性を確保することが決定的に重要なのではないかと私は思っています。
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