小沢一郎・志位和夫 ブキミな蜜月関係

小沢に「教えて下さい」

 しかし、政策を無視した革命政党との連携など、政党人としては“禁じ手”である。それをあえてする小沢は、最早、政界のピエロと言うより仕方あるまい。
 実際に、小沢はもう過去の人だ。民主党政権時代には、政治資金で大量の不動産を購入していたことが発覚して強制起訴されるなど、本来ならもう表に出られない政治家である。

 民主党を離党し、国民の生活が第一を結党したときにはまだ五十人近くいた国会議員は、前回総選挙(平成二十六年)では、所属する生活の党の当選者が二人だけで、参院を合わせても四人となり、得票率も二%を割り込んだために政党要件を失った。
 そこで無所属だった参院議員の山本太郎の参加を得て、名称も「生活の党と山本太郎となかまたち」とし、何とか政党要件だけは回復、山本とともに共同代表となったが、左翼過激派とも交際があると囁かれる山本と比較してでさえも影は薄かったのである。
 小沢は近年、壊し屋の本性を国民に見抜かれ、もう誰からも振り向かれないまでに落ちぶれてしまっていた。孤独、寂寥感さえ漂わせていた。ところが、志位との急接近という「禁じ手」で、再び囃し立てられるようになっているのである。

どこが「リアリスト」だ!

「仮に戦争法(安保法制)が成立した場合、その後の戦いが重要ですね」
「野党がバラバラではいつまでたっても自民党に勝てない」

 小沢、志位二人が接近したのは、東北新幹線車中のこんな会話がきっかけだったという。岩手県知事選で野党共闘が実現し、現地で五党の代表が勢揃いしての東京への帰路だった、と朝日新聞(平成二十七年十二月二十四日)が劇的に書いている。
 岩手では、小沢の要請を受けて共産党も協力し、自民党を不戦敗に追い込んだ。これを契機に、二人はたびたび意見を交わすようになったというのである。
 野党共闘と国民連合政府構想は志位委員長が昨年九月に発表したが、その直前にも二人は会談し、志位は概要のメモを見せたという。
 これに対して小沢は、

「よく決断してくれた。この年になって、志位さんと一緒に政権取りができるとは思わなかった」

と感動の言葉を漏らしたという。
 志位氏は、重い決断をするときは自宅でピアノに向かうが、このときはシューマンの作品を弾いた。そのあとの小沢氏との会談では、小沢氏に

「私たちは政権を取ったことがない。いろいろ教えて下さい」

と述べたともある。
 この記事は星野典久記者の署名記事だが、

台風の目は共産党だ。自前候補の取り下げも辞さない「現実路線」に踏み出し、野党連携の歯車が回り出した

と野党共闘を肯定的に報じていた。「我々はウルトラリアリストになった」との志位委員長の発言も紹介されている。
 野党共闘とともに打ち出した日米安保の破棄や天皇制の廃止などの共産党の固有政策の棚上げというのは、小沢のアドバイスに基づくものとの他のメディアの報道もあるが、この分だと本当かもしれない。

 だが、暴力革命を捨て去ることなく、国民の目を欺いて抵抗感をなくす、そんなマキャベリズムの何が「ウルトラリアリスト」なのだろうか。
 それより何より、小沢一郎はいつから革命政党の指南役になってしまったのだろうか。
 『世界』別冊の二人の対談をもう一度引こう。小沢は言う。

「とにもかくにも、今の政権は全くだめだということで、志位委員長、共産党の決断が日本の歴史をきちっとしたものに変えていくきっかけになるんじゃないかと、そう思っています。
 問題はむしろ、野党の側にあるんです。このせっかくの決断をきちっと生かそうという気持が野党の中でもっと高まらないと、『共産党とは組めない』とか、『共産党は嫌いだし、小沢一郎はもっと嫌いだ』とか、そんなことを言っているようでは安倍さんになめられるばかりだ」

「僕は憎まれっ子だから、あまりしゃしゃり出るようなことはしないけれど、何としても野党共闘は実現したい

 対する志位。

「共産党と政権を作ることについて、小沢さんは即断即決で賛成してくれて、心強く思っているのですが、なかなか、共産党と一緒に政権を作るのは難しいという声もあるものですから……」

 要するに、嫌われ者同士なのだ。

→ 次ページ「小沢、野党を叱る」を読む

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西部邁

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