小沢一郎・志位和夫 ブキミな蜜月関係

朝日新聞も社説で応援

 共産党が、国民連合政府を提唱するのは初めてではない。
 名称は違うが、六〇年安保直後にも、安保反対で勢力を結集した統一戦線政府を提唱している。平成十六年までの党綱領には、民主統一戦線政府は「革命の政府」へ移行するとしていたのである。
 革命政党の牙を隠して多数派を形成し、独裁権力の獲得を狙ったものである。これが戦前、コミンテルンの日本支部として誕生した日本共産党の見果てぬ夢であることは間違いない。だが、袖の下から鎧がみえるそんな構想に飛びつくものはいなかった。
 しかし、ここに協力者が現れた。それもかつて、総理大臣を指して「かつぐ神輿は軽くてパーがいい」と嘯いたり、中国に百四十人の国会議員を引率して朝貢外交を繰り広げたりした大物である。
 小沢は、他の野党が尻込みするなかで真っ先に、「日本共産党が戦後一貫した選挙方針を大転換し、戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府で一致する野党との選挙協力を提案したことは、野党共闘に向けた大きな弾み、この決断を私たちは高く評価しています」と手放しで礼賛した。
 それもそのはず、のちに詳しく触れるが、朝日新聞によれば二人は、参院選に向けての打倒安倍政権での野党共闘について会談を重ね、志位が記者会見して共産党の提案を発表する前に、小沢に共闘内容のメモを見せていたらしいのである。
 この展開に、共産党や、朝日新聞、岩波書店などの左翼メディアが喜ばぬはずがない。
 朝日新聞は、

「自民1強政治」への対抗をめざす動き(平成二十七年十月十二日)

と共産党提案を社説で歓迎した。
 このなかで当時の民主党内に共産党との連携に反発があることについて、こう戒めていた。

ここは自民、公明の与党体制に代わりうる政権の選択肢づくりを掲げ、大きな目的に向け結集を図るべきだ。与党が「安倍一色」ならば、これを逆手に「多様性」を旗印とする。そんなしたたかさがあっていい。

 政権の選択肢づくりというなら政策の一致を急げ、と書くべきところを、安倍政権打倒という「大きな」政治目的のためなら、政策の不一致など問題にするなというのである。
 これは、共産党との共闘を考える勢力にとっては力強い天の声だったはずだ。
 そうなのだ、国民連合政府にとって、政策など初めからどうでもいいのである。そうでなければ、革命を志向する共産党との連携など不可能だからだ。
 平和だ、護憲だと叫ぶ共産党が、実は日本国憲法制定時に「自衛権が盛り込まれていない」ことを理由に憲法案に反対したたった一つの政党であったことや、国民連合政府を経て社会主義・共産主義体制へと移行する革命への道も、決して野党共闘で語られることはない。

小沢のかつての安保観

 この打倒安倍政権の一点で野党がまとまるというのは、小沢にとっても大変都合のいいことだ。政策を言い出せば、安倍政権を批判することすらできなくなるからだ。
 特に外交、安全保障政策について言えば、共産党と小沢ではどう見ても水と油だ。

 古い話だが、一九九〇年の湾岸危機のときに、多国籍軍を後方支援するための自衛隊を海外に派遣することを最も強く主張していたのは小沢である。その後、さまざまな変遷はあったが、国連の集団安全保障への日本の参加の必要性をも一貫して主張し続けてきた。
 またPKOだけでなく、国連決議があれば多国籍軍にも参加すべきだと発言したこともあるし、一国平和主義の限界にも言及してきた。そして安倍政権が閣議決定した集団的自衛権についても、こう答えている。

 集団的自衛権も個別的自衛権も、観念上、区別しているだけの話で、自衛権であることに変わりはないです。国連憲章でも集団的自衛権と個別的自衛権を自然権として認めている。ただ9条の趣旨は、日本の安全にかかわるときにのみ自衛権の発動が許されるとしているというのが僕の解釈です。
 一般論として、集団的自衛権は何かとてもおどろおどろしいもののようにみられているけど、僕はそうじゃないと思っている。むしろ個別的自衛権を拡大解釈して行使するほうがはるかに怖い。(中略)個別的自衛権に比べると、集団的自衛権のほうが暴走する危険性ははるかに低い。

(『90年代の証言 小沢一郎・政権奪取論』平成十八年、朝日新聞社)

 朝日新聞社刊だからといって捏造ってことはないだろうが、ご覧のように安倍政権の限定的な集団的自衛権の行使にそっくりなのである。それなのになぜ小沢は、民主党(現民進党)や共産党、社民党などと安保法廃止で連携できるのだろうか。何が不満なのだろうか。強いて言えば、安倍晋三首相がやったから反対なのだろう。
 言い古されたことだが、権力闘争が自己目的化している小沢にとっては、政策など何でもありなのである。 また、かつては誰よりも日米同盟の重要性を強調していたのに、民主党時代に「日米中の三カ国は正三角形の関係」と言い出して眉を顰められたこともある。
 私には、小沢は自民党から新生党、新進党、自由党、民主党、そしていまの「生活の党と山本太郎となかまたち」と渡り歩くなかで、自分がどこにいるのか、どこに向かっているのかすら分からなくなっているのではないかと思える。
 共産党にとって、そんな小沢が非常に取り込みやすい相手であるのはたしかだろう。

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西部邁

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