グローバル金融危機の発生メカニズム

「グローバリズムに迎合するなかれ」が歴史の教訓

国際資本取引活発化、あるいはそれを可能にしたレジーム・チェンジの根幹にあるのは、19世紀と現代のいずれにおいても、利益成長の機会を求め続ける「資本の論理」です。
そのはけ口を国外に求める動きが政治と結びついてエスカレートしたのが、19世紀の帝国主義であり、現代のグローバリズムである、という訳です(「国内ではもう成長が難しいから、TPPでアジアの成長を取り込むんだ!」というのも同じ発想であることは言うまでもありません)。
しかしながら、主だった国々がそうしたレールに乗ってしまえば、必然的に「利益(所得)をめぐる国際的なパイの奪い合い」が起きてしまいます。こうした「エゴとエゴとのぶつかり合い」は国際的な摩擦・衝突を引き起こしていずれ継続不可能になり、どこかで反動・清算のプロセスが生じるのもまた必然でしょう。
帝国主義の行きつく先に2つの世界大戦(1914~1918年と1939~1945年)が勃発し、その後1970年代初期までの資本取引規制レジーム期がむしろ「資本主義の黄金時代」と称されたのも、こうした文脈で理解できるのではないでしょうか。

話が飛ぶようですが、こうしたマクロ的・歴史的見地に立って改めて認識したのは、太平洋戦争(大東亜戦争)など、どう逆立ちしても正当化できるものではない、ということです。
なぜなら満州事変に象徴されるように、太平洋戦争とは自衛戦争というよりも、日本自身が帝国主義のレールに乗って起こした、一連の行動の帰結であるからです(あるいは「1868年、すなわちレジーム・チェンジの真っただ中に成立した」という事実自体が、当時の政府が帝国主義の申し子であったことを象徴している、という見方も成り立つと思います)。
「それが当時の常識に基づくものであった」といっても弁解にはなりません。それはあくまで「ある一部の人々にとっての誤った常識」に過ぎない訳ですし、そんなことで正当化されるのであれば、現代のグローバリズムとて「当時の常識」として正当化されてしまいます。
ややもすると混同する向きがあるようですが、これは自虐史観でも何でもなく、「太平洋戦争がアジアにおける欧米植民地の独立をもたらしたか否か」「日本の植民地経営が、その後の朝鮮半島や台湾の発展につながったか否か」「南京大虐殺や従軍慰安婦問題などが事実か否か」といった論点とは無関係です。
より根本的な問題として、「帝国主義的な手段に訴えて問題解決を図ろうとし続けてきた点において、当時の政策レジームに対して肯定的な評価を下すべきではない」ということを述べています(したがって、「勝てる見込みが無いのに行った愚かな戦争だった」という言説に与するものでもありません)。
言うまでもなく、これは「戦争が既に起こった状況の中で、自分の先祖が家族や同胞を守ろうとして戦ったことを誇りに思うか否か」というミクロの議論とは切り分けて考えるべき問題です。また、「現代の日本において、外国の軍隊に依存しない防衛体制を備えるべきか否か」という論点とも全く次元の異なる問題です。
こうした見地に立つと、現在の自民党政権やそれを取り巻く一部の人々のあり方には、危うさというか、一抹の不安を感じます。

「財政支出の持続的拡大による国内経済の成長」こそが正しい政策

では、当時の政府はどうすべきだったのか。
単純な結論のようですが、帝国主義から脱却して国内向けの財政支出を増やし、内需による経済成長を追求すれば良かっただけの話です(その意味では、高橋財政が始まる3ヶ月前に陸軍が満州事変を起こしてしまったのは、不幸な巡り合わせと言えなくもないですが、帝国主義の前提から離れれば、対米開戦前にインドシナ半島、場合によっては満州からも撤退する、という選択肢が生じます)。
「資本の論理」が求める利益成長など、所詮はおカネを単位とした「名目ベース」の尺度に過ぎず、財政支出を拡大すれば、その分名目GDPは成長する訳ですから(図5)。

【図5:名目経済成長率と名目政府支出伸び率(いずれも年換算)の長期的な関係】

名目経済成長率と名目政府支出伸び率(いずれも年換算)の長期的な関係

最後に、財政支出の拡大による国内の完全雇用達成が、経済成長を求める国同士が争う理由を消し去ることで平和にも貢献することを説いた、ケインズ「一般理論」の一節を引用して、本稿を締めくくりたいと思います。

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西部邁

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  1. 2014-10-15

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