グローバル金融危機の発生メカニズム

「資本取引の自由化」が金融サイクルの長期化・大規模化をもたらした

金融サイクルの長期化、ひいてはそれに伴う金融危機の大規模化をもたらしたものは何か。それは「国際資本取引の活発化を背景とした、実物経済における景気変動の主役交代」です。
図1でも明らかなように、金融サイクルとは金融市場だけで起こる現象ではなく、実物経済とも結びつき、なおかつそれに牽引される形で生じます。いわゆるバブルが生じる際には、常軌を逸した資産価格の高騰を正当化する「物語」が存在することもそれを裏付けています(サブプライム・バブルにおける移民を根拠とした右肩上がりのアメリカ住宅市場の正当化、1990年頃のバブルの際の日本の土地神話、1970年代前半のバブルの際の日本列島改造論など)。
では、金融サイクルの長期化をもたらした実物要因は何か。それは図2が示す1970年代以降の建設ストック(資本ストックのうち、建物、各種インフラに該当するもの)の存在感拡大、すなわち「景気変動の主因となる投資対象の主役交代」と考えられます。
従来からある景気循環理論の用語で表現するなら、景気循環の主役が、周期3~4年のキチン・サイクル(在庫循環)や7~10年のジュグラー・サイクル(設備投資循環)から、15~20年のクズネッツ・サイクル(建設循環)に交代し、全体としての周期が長期化した、ということです。

【図2:日本の生産資産残高に占める建設ストックの比率】

日本の生産資産残高に占める建設ストックの比率

そして、こうした実物経済上の変化をもたらしたレジーム・チェンジ(大きな枠組みの変更)が、1960~70年代にかけて主要国で実施された国際資本取引の自由化(その大きな区切りが1973年の変動為替相場制への移行)です。これによって金融取引の対象が「生産設備への投資」から「収益資産への投資」にシフトし、生産資産の中でもその受け皿になりやすい建設ストックの比重が増し、景気循環の主役に躍り出た、という訳です(「では、なぜ20年弱の周期でこうした景気循環の波が発生するのか」という問題については、稿を改めてご説明したいと思います)。
こうした国際資本取引の活発化と軌を一にした金融危機の大規模化が19世紀後半から第一次世界大戦直前までの時期にも起こっていたことを示しているのが図3、同時期における金融サイクルの長期化・大規模化が1870年代以降生じているのを示しているのが図4(当時覇権国家で世界最大の資本輸出国だったイギリスの経常収支対GDP比を代理変数として使用)です。

【図3:グローバルな資本移動性と銀行危機発生度の推移(1800~2007年)】

グローバルな資本移動性と銀行危機発生度の推移(1800~2007年)

(Carmen M. Reinhart and Kenneth S. Rogoff “This Time is Different: A Panoramic View of Eight Centuries of Financial Crises” より転載)

【図4:イギリスの経常収支(GDP比)の推移(1830~1920年)】

イギリスの経常収支(GDP比)の推移(1830~1920年)

19世紀にも図2で示したような「建設ストックの存在感拡大」が生じたていたかどうか、私自身は確認できていません。他方で1870年前後には、「欧米主要国の相次ぐ金本位制導入(取引における価値尺度の共通化)」という、国際資本取引の活発化を可能にするレジーム・チェンジが生じています。このことから、当時もやはり1970年前後と同様な構図が生じていたのではないかと推測されます。

→ 次ページ:「「グローバリズムに迎合するなかれ」が歴史の教訓」を読む

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西部邁

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