『ネット世論』を目の敵にする朝日新聞

山口二郎教授の品性

 この列に既存メディアも加わります。記事のまるごとのコピペや、録画したテレビ番組を無断で動画サイトへアップロードする行為は、違法性が高いとはいえ、要点のみに絞って「引用」を目指したり、番組内容を文字起こしするなどして、ネット上にテレビや新聞が報じた内容がストックされるようになりました。
 つまり、一般人でもテレビ出演者の発言や数カ月前の新聞記事を、自宅にいながら検証することが可能となったのです。これが「フローからストックへ」の変化です。そして、朝日新聞を筆頭としたメディア自身が検証される立場になりました。「フロー」に甘んじていた彼らにとって、これはまさに〝存立危機事態〟です。
 二〇一四年八月五日、朝日新聞が慰安婦報道を誤報と認めた背景には、新聞記事のデータベース化はもちろん、鬼女をはじめとしたネットユーザーが、ストックされた情報をもとに彼らのを指摘し続けたこともあるのではないでしょうか。
 一度きりしか放送されないオンエアとは異なり、ネットにストックされた動画は繰り返し何度でも視聴できます。同様に、電子情報となった新聞記事は、廃棄されることも古紙回収に廻されることもありません。そのため、論拠の乏しい発言は、数日程度の歴史の審判にさえ耐えられなくなりました。
 とりわけ朝日新聞に頻繁に登場する「朝日文化人」と呼ばれる著名人は、紙面に迎合したかのコメントを寄せることが多く、「右傾化」や「軍靴が聞こえる」と論拠のない論評に対して、ネット上では激しい批判に晒されています。
 ネットには人間の品性、品格もストックされます。安保法制に反対する国会前の集会で、やはり朝日文化人である法政大学法学部教授の山口二郎氏は「安倍に言いたい! お前は人間じゃない! 叩き斬ってやる」と宣言していました。
 大学教授ともあろうものが、気が触れたように叫ぶ。あの映像は、さすがに本人も二度と観たくないのではないでしょうか。
 しかし、人柄が透けて見えるその発言は、動画はもちろん、ネット上で何千のブログと、あの「ウィキペディア」にもストックされています。今後、彼の言葉に、暴言を重ねてみる視聴者は少なくないでしょう。
 テレビや新聞も検証可能となり、そしてその場限りの発言をしていた文化人、ジャーナリストの発言も「看過」されるものではなくなりました。
 だからと手放しで喜ぶことはできません。ネット上に「ストック」される情報は正しいものばかりではないからです。

デマも検証・訂正される

 インターネットは「貧者のメディア」と呼ばれていました。アクセスする費用だけで、誰でも情報発信ができるからです。いち早く積極的に取り組んだ政党は、国内では日本共産党といって間違いないでしょう。
「日本共産党カクサン部」など、ネット活用の背景には、これまで培ってきたノウハウがあります。そして、そのシンパがゲリラ的に事実を都合良く切り取り、情報発信を続けてきました。
 私が住む東京都足立区では、一九九六年に革新系の吉田万三区長が誕生しました。当時を知る自民党の区議が「悪夢のようだった」と振り返るように、区政を大混乱に陥れ、リコールに追い込まれます。
 ところが、吉田区政をネットで探すと、議会の陰謀で窮地に追い込まれた悲運のヒーローとして紹介されています。これらの書き込みは彼の支持者によるもので、事実無根の「ものがたり=」でもネットはストックしてしまうのです。
 デモや抗議集会の参加者水増しも同じ手口です。安保法制に反対するデモ隊が国会前に十二万人と集まったと発表したのは主催者ですが、警察発表では三万数千人で、土地面積から割り出した人数でも同様の結果になります。
 数字を水増しするのは、水増しした数字を朝日新聞、毎日新聞、そしてしんぶん赤旗などがそのまま紹介することを心得ているからです。いわば新聞記事というソース作りであり、歴史の捏造における連携プレイ。目的のために足並みを揃える構造は集団的自衛権と同じで、朝日新聞などの振る舞いは「後方支援」といえるでしょう。

〝ストック〟の力

 しかし「フローからストック」への変化により、この手法が通じなくなりつつあります。エポックメイキングとなった事件は、二〇〇七年の沖縄教科書抗議集会で、宜野湾海浜公園で行われた集会に集まった人数を主催者は十一万人と発表し、既存メディアはこれをそのまま発表しました。
 違和感を覚えた警備会社テイケイの会長が、空撮写真をブロック毎に分けて「頭数」を数えると、最大でも二万人に過ぎないと判明し、ブログで発表します。論拠も明らかな「頭数」が左翼のを暴き、既存メディアの信頼性をぐらつかせたのです。
 ネットにストックされた情報が社会的影響を与えることは、十年前に予言されていました。「Web2.0」の定義のひとつ「集合知」で、「みんなの意見」を集積させることで正しい結論を導き出せるとする説です。エンブレム騒動はまさにこれです。
 私はネット万能論者ではなく、むしろ軽薄な礼賛に水をかける立場から執筆活動を続けてきました。Web2.0の熱狂の最中、それを真っ向から否定したのは私ぐらいではないでしょうか。その理由を端的に述べるなら、額に汗して働く一般人は、ネットに張り付いているほど暇ではないからです。
 そんな私でも、「エンブレム騒動」における「集合知」は認めざるをえません。そして、それに怯える既存メディアの姿を発見しました。同時に、Web2.0の喧噪から十年で、ようやくネット世論が社会を動かすまでになったのなら、次の十年へ向けて、いま保守派が取り組むべき課題も見えてくることになります。

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西部邁

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