韓国の反日を封じ込める道はある

我が身の欺瞞を顧みよー反日を封じ込められない理由ー

 韓国人が内心、「日本には(未来永劫!)かなわない」と思っており、だからこそ反日を唱えることは、すでにご理解いただけたでしょう。裏を返せば、最近のわが国で見られる「反韓」ブームの根底にも、「もしかしたら韓国に負けるのではないか」という不安がひそんでいるものと思われます。
 つまりは互いに、相手の力量を評価するようになってきた次第。前にも述べた通り、これは喜ばしい変化です。
 日韓関係は悪化しているなどと言うのは、あくまでうわべの話。「鬱屈したラブコール」たる反日を封じ込めるか、素直なラブコールに反転させることができれば、われわれは真に良好な関係を築けるところまで来たのです。そんな変化など起こるはずがないと思う方は、本論冒頭に記した一九八〇年代後半の事情を振り返って下さい。
 ならば、向こうの反日を封じ込めるにはどうしたらいいのか? 再び重要なヒントを与えてくれるのが中野剛志さんです。雑誌『表現者』誌上における大座談会「大東亜戦争とは何だったのか」で、彼はこう語りました。

 (これは)むしろ保守派に典型的ですけれども、戦後日本は廃墟の中から立ち上がって輝かしい経済発展を遂げ、第二位の経済大国になりましたと延々と自画自賛をするわけです。これが根本的な問題で、考えてみれば戦争に負けたと言っても、ドイツとか朝鮮のように分断されたわけでもないし、内戦になったわけでもない。しかもアメリカはソ連への防波堤として日本に経済発展を許し、(中略)自分の市場を開放してくれた。これだけやってもらえれば、たいていの国は経済発展します(笑)。しかも経済発展の高度成長、戦後復興のきっかけとなったのは、朝鮮戦争の特需という人の不幸です。人の不幸のおかげで成長して、世界第二位の経済大国になったと威張り散らかしたら、民族分断されて苦しんできた朝鮮の連中は日本人がムカつくに決まっている。
(『表現者』第五〇号、八四ページ)

 韓国の反日が収まらない背景には、「戦争に負けた途端アメリカに尻尾を振った上、おのれの節操のなさを恥じるどころか、民族的な力量の表れのごとく自慢する」という、戦後日本の欺瞞的なあり方に対する反発があるのです。そしてこれは、もっともな話と評さざるを得ない。

「日本の植民地支配に対し、自力で独立を勝ち取れなかったので、その埋め合わせとして、いつまでも過去の反省やら謝罪やらを求めてくるのではないか」という指摘もあるでしょう。もちろん、この指摘は正しい。しかし戦後日本も、偉そうな顔ができた義理ではありません。

 一九五二年の主権回復は、キツい表現をすれば、変節と追従の上に達成されたのです。それを自慢のタネにする恥知らずな国には、過去の反省や謝罪を際限なく求め続けたところで、道義上の問題など生じるはずがない——韓国人がこう判断したところで、果たして責められますか?

 反日を叫ばずにいられないことには、韓国人自身の問題もあります。けれども反日を封じ込められずにいるのは、主として日本人の側の問題です。

 しかもそれは、「国際的な情報発信能力が不足している」というレベルの話ではない。敗戦後の自国のあり方について、ちゃんとした筋を通そうとしないまま、「とにかく繁栄しさえすれば良い」と言わんばかりの態度を取ってきたことのツケなのです。

「戦後」を終わらせることが先決 ―まずは歴史に筋を通せ―

 従軍慰安婦の問題にしても同様です。いわゆる「性奴隷」の主張に対し、わが国の保守派は、「強制連行はなかった」とか「慰安婦の待遇は良かった」といった主張で対応していますが、これは二次的なポイントにすぎない。

 戦争を遂行するにあたり、兵士の性欲はどう処理されるべきだと考えているのか、性欲の処理は「アジアの解放」という大義とどんな形で結び付くのか——この二点についてハッキリした見解を打ち出さないことには、有効な反論にならないのです。セックスに関する話は、キレイゴトやタテマエでは片付きません。片を付けたかったら、「戦争と下半身」についてホンネで語るべきです。

 韓国の反日を封じ込め、両国の関係を望ましいものにしてゆくにはどうすればいいか? 答が見えてきましたね。戦後日本のはらむ欺瞞性を直視し、戦前と戦後の間にきちんとした筋を通す、そこから始めなければなりません。

 締めくくりとして、韓国の反日が戦後日本のあり方と密接にかかわっていることを、ほとんど無自覚なまま指摘した文章を紹介しておきましょう。政治学者の御厨貴さんが東日本大震災の直後に発表した「『戦後』が終わり、『災後』が始まる」(『中央公論』二〇一一年五月号)。

 この文章の途中に、面白い予測が出てきます。御厨さん、韓国や北朝鮮(および中国)も、今回の震災のあとでは、日本の過去の所業をあげつらって文句をつける外交戦術、いわゆる「歴史カード」を切りにくくなるだろうと書いているのです!

 なぜか? いわく、東日本大震災は「戦後の終わり」だから。

 竹島や尖閣諸島で、震災以後に起きた出来事を取り上げて、予測の誤りを笑うのは簡単です。だとしても、御厨さんの議論のどこが間違っていたのかは、考えてみる価値があるでしょう。

 実のところ、間違っているのは「東日本大震災が戦後を終わらせた」という認識なのです。戦後を本当に終わらせることができれば、反日は確かに下火になる可能性が高い。
 逆に言えば、戦後が続いている間は、反日、とりわけ韓国や北朝鮮の反日にも、それなりの根拠や正当性があります。保守派の皆さんにとっては、あまり嬉しくない話かもしれませんが、現実は現実として受け入れねばなりません。世の中はわれわれの都合に合わせて動いているわけではないのです。

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西部邁

佐藤健志

佐藤健志評論家・作家

投稿者プロフィール

1966年東京生まれ。東京大学教養学部卒業。1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を受賞。作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動で知られる。ラジオDJ、漫画原作、作詞も手がける。著書に『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『震災ゴジラ!』(VNC)、『国家のツジツマ』(共著、同)、小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)など。訳書に『新訳 フランス革命の省察』(エドマンド・バーク、PHP研究所)、『コモン・センス完全版』(トマス・ペイン、同)がある。
公式サイト「DANCING WRITER」 http://kenjisato1966.com/

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