国土強靭化を進めよう!

問題は負債が増えないこと

なぜか日本国民に「借金は悪」というイメージが蔓延していますが、資本主義は「将来への楽観」「アニマルスピリット」から経営者や起業家が負債を増大させながら、積極的な投資や消費を行うことで経済規模を拡大させていく経済体制です。

しかし、2002年の民間企業負債は909兆円、家計負債は389兆円でしたが、2011年末の民間企業の負債は809兆円、家計負債は360兆円と、日本の民間企業と家計は負債を減らし続けています。つまり、現在の日本経済は資本主義体制とは言えない異常な状態です。

国土強靭化は景気対策になる

今の日本経済に最も必要なことは「不確実性を抑え込み、将来への楽観を生み出すこと」でしょう。経営者や起業家が負債を増やしてでも、投資や消費をしたくなる活気あふれる日本経済を取り戻すことが最優先課題なのです。

その一つとして、雇用や所得を生み出す国土強靭化(長期的な公共事業の拡大)は決して間違いではありません。

日本の公共事業費(一般会計)は1998年度14.9兆円を頂点にして、緊縮財政によって年々削減され、2012年度5.8兆円まで落ち込んでいます。公共事業費や地方交付税交付金の削減を続けた結果、老朽化した橋や道路の検査すら満足に行えていない地方自治体が沢山あるそうです。

それほど現在の公共事業費は少ないのです。結果的に地方経済の疲弊化を招いています。たしかに公共事業費が半分以下まで落ち込めば、多くの建設業が倒産に追い込まれ、多くの失業者を生むでしょう。

実際に建設事業者数は2001年632万人から2009年517万人まで減少し、建設業許可業者数は2001年57万社から2009年51万社まで落ち込んでいます。むろん、公共事業削減だけが原因ではないでしょうが、100万人以上の人が失職し、6万社が倒産すれば、他の産業にもマイナスの経済効果が波及するのは間違いありません。これだけの雇用が喪失し、企業が倒産すれば日本全体の不確実性を高めてしまいます。

今の日本に必要な公共事業がなければ、公共事業を拡大するよりも、防衛費や教育費、少子化対策、研究開発費などの予算を増やす方が「生きたお金」になります。

しかし、実際は東北復興、老朽化インフラ対策、洪水対策、地震津波対策、港湾大型化、渋滞対策など必要な公共事業は山ほどあります。その中でも「日本国民の生命や財産」「地域と日常」に直結する国土強靭化(東北復興と地震津波対策)は最も重要な公共事業であり、好不況に関係なく国家意志として進めるべき公共事業でしょう。

また、日本経済は長期不況に悩まされています。多くの日本国民は所得低下と雇用の不安定化に悩んでいます。「転職したいが、良い職場がない」「正社員になれない」「せっかく仕事が見つかったが、就職先がブラック企業であった」といった若者の声をよく聞きます。

その一方で国家のバランスシートを見れば、日本は巨大な純資産国であり、世界最大の対外純資産を保有する世界最大の投資国です。この大きな矛盾を是正していかなければなりません。

日本国内の余剰資金を内部留保や為替リスクの伴う対外投資、金融機関の超過預金に回すくらいであれば、日本政府は建設国債を発行し、堂々と必要な公共事業費を拡大し、日本国民の雇用や所得を増やすべきす。

「長期的な公共事業費の拡大」が政府によって約束されたなら「将来への楽観」が生まれ、建設会社だけでなく日本全体の経営者や起業家の投資マインドや日本国民の消費マインドを変えることは間違いありません。

国土強靭化によって需要が生まれ、多くの企業が投資を増やせば日本全体の雇用や所得を増やすことが出来るでしょう。政治家は勇気を持って、正々堂々と国土強靭化の必要性を訴えていくべきです。

そして、国民は「日本は借金大国」といった誤った情報を鵜呑みにせず、正しい日本経済の実態を知り、勇気を持って「国土強靭化を進めよう!」と声をあげるべきではないでしょうか。(ただし、筆者は国土強靭化(10年間200兆円)は期間が短いため満足な「将来への楽観」を建設業に与えることが出来るとは思えません。また必要な公共事業は沢山あります。もっと長期的に大規模な予算投下をすべきだろうと考えています。)

参考文献:「公共事業が日本を救う / 藤井聡」「救国のレジリエンス / 藤井聡」「日本を滅ぼす消費税増税 / 菊池英博」「自由貿易神話解体新書 / 関良基」「バブルの死角 日本人が損するカラクリ / 岩本沙弓

資料:「日本国債保有者内訳:日本銀行資金循環統計」「日本国家のバランスシート:内閣府国民経済計算確報」「輸出総額:財務省HP」「就業者数・対外投資:総務省統計局HP」「非正規雇用者比率:社会実情データ図録」「給与所得者数の給与額:国税庁HP」「建設事業者数・建設業許可業者数:社団法人日本土木工業協会」「内部留保(資本金10億円以上の大企業の連結ベース):国民春闘白書」
※対外投資は2000年データがないため、2001年のデータを表記した。

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西部邁

守屋雅翔

守屋雅翔

投稿者プロフィール

岡山県出身。小学生の頃から社会に興味があり、新聞や経済誌を読む。社会人になり、非常に厳しい日本経済の状況を目の当たりにし、リーマンショックを機会に経済の勉強を独自に開始。自分の業務経験や他業種の人々との会話、高校の頃に習った簿記の知識をベースに独自の視点で経済を考察。財政金融政策は不況時には当然行う政策であるが、あくまでカンフル剤であり、重要なのは「経済構造の是正」であると独自の主張をしている。

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コメント

    • 魚農虎
    • 2013年 10月 29日

    活かした金のためにもしっかりやってください

    • うずら
    • 2014年 3月 09日

    マスコミやそれに扇動された”庶民派”を気取る人々は、政府による財政支出や公共事業に歪んだ感情を抱き続け、それらを攻撃する機会を常に窺ってきたように思えます。

    口では理想論(実は暴論だったわけですが…)を唱えつつも、公共事業を通じて実生活で果実を得るために、そういった感情を押し殺していたのですが、(なぜか)国民の高い支持を得た小泉政権の誕生を契機に、そのタガが外れ、「自由貿易」「規制緩和」「財政再建(緊縮財政)」といったパンドラの箱を開けてしまったのです。

    愚かな国民は、高い代償と授業料を払い、くだらぬ社会実験を10年以上も続けてきたのですが、未だにその失敗を認めたくはないようです。

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