朝日新聞は「戦勝国の特高警察」だ

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「日本叩き」の源流

「戦後、転向した」とされる朝日だが、実は八月十五日を期に論調を転換したわけではない。被占領後も屈することなく、昭和二十年九月十五日、鳩山一郎の「〝正義は力なり〟を標榜する米国である以上、原子爆弾の使用や無辜の国民殺傷が病院船攻撃や毒ガス使用以上の国際法違反、戦争犯罪であることを否むことは出来ぬであらう」というインタビュー記事を掲載した。

 明らかな戦争犯罪である空襲や原爆報道から加害者の影を消し去り、「悪である日本に対する罰」であるかの如く報じるいまの朝日からは想像できない「正論」だが、これが当時、すでに新聞報道取締方針を発布していたGHQの逆鱗に触れ、朝日は二日間の業務停止命令を受けた。

 そうしてGHQは翌年、新聞や報道に対する三十項目の検閲対象を規定する準則を出した(A Brief Explan-ation of the Categories of Deletions and Suppressions, dated 25 Novemb-er, 1946)。
 そこには「削除及び発行禁止のカテゴリー」が列挙され、〈連合国軍総司令部に対する批判〉や〈アメリカ合衆国への批判〉のほか、〈朝鮮人への批判〉や〈中国への批判〉、さらには〈戦争犯罪人の正当化および擁護〉〈占領軍兵士と日本女性との交渉〉までも含まれている(表参照)。

GHQの検閲において「削除、または公開禁止の対象となるもの」

 三十項目をご覧いただけば明らかだが、朝日新聞の論調は今もこの規定の枠内で展開されているかのようだ。これまで「中国に土下座」「韓国擁護」と言われてきた朝日の論調も、両国に対するシンパシー以前に、実は戦勝国によって定められた規定からきている。国連賛美の原因もここにあるのだろう。
 朝日新聞は自らを(特に過去の)日本から切り離し、「他者/外部」に位置付け、糾弾することに存在価値を見出してきた。日本人の無念を踏みにじり、戦勝国に都合の悪い言論に目を光らせることで存在理由を得、生き延びてきたのである。

 朝日が好んで紙面に登場させるようなリベラリストには、

「敗戦国が戦勝国の論理に従うのは当然」
「負けはしたが大義は正しかったという論理は通らない」

と述べる人もいる。
 「赦し」の概念を持たず、勝者(強者)の立場で敗者を断罪する人間がなぜ「リベラリズム」を掲げるのか、理解に苦しむ(このような考えは恨みと戦争の連鎖を生む)。国際法的に一面の事実はあっても、その論理を受け入れるにも限度というものがある。

 戦後七十年、謝罪と「平和への貢献」に努め、自国の軍・兵士を「憲法違反の存在」に押し込めてまで、日本は「負けたのだから仕方ない」と「戦勝国のご意向」に沿ってきた。だが朝日は、「まだ足りない」「今後もその枠から一歩たりともはみ出すな」と言わんばかりの執念だ。
 あたかも、自身が日本の危険分子を取り締まる役目を負った「戦勝国の特高警察」にでもなったつもりだったのだろう。

 朝日新聞が日本の右傾化に過剰に反応するのもそのせいだ。他国では当たり前の集団的自衛権行使容認を軍国主義と批判する。「反中憎韓本が売れている」と苦々しく報じる時、朝日は言論の自由よりも、これらの出版状況が「GHQの検閲コードに触れる」ことを気にしている。そして、「ヘイトスピーチで外国人を排斥し、ナチズムに傾倒する若者が増えている」と、国内で解決可能な僅かな現象も見逃さず、国際社会へ通告する。それが「国連で断罪された」と言って喜び、さらに問題を大きくする。そんな自身を正義の側に置く。

 過去・現在にかかわらず、中国や韓国による日本に対する非難や被害は他人事で、わが事として受け止められない。そのため「劣等感を抱いた若者が中韓を攻撃している」と書きながら、その劣等感の源(自虐史観や経済不況)を解消するつもりはない。一方で、日本の加害責任は針小棒大に報じる。この不公平感が朝日への反感を倍増させている。

もはやDVの域

 そして慰安婦報道で謝罪できなかったのも、報道の目的が「戦中に悪事を働いた日本を批判する」ことにあったからだろう。「悪を叩くのがなぜ悪い」という傲慢さゆえである。 朝日の論調が時として韓国と歩調が合い、あの反日基調の韓国紙が朝日を「日本の良心」と持ち上げるのも、ここに理由がある。韓国は終戦まで日本の一部だったが、終戦後、戦勝国の立場を主張した。朝日もそれに同調するかのようだ。

 そして普段は「力の論理」を嫌う反米のような顔をしながら、靖国参拝に米国が物申すや「米国までもが反対しているぞ」と国内世論を抑えつけにかかる。国連批判などはついぞ読んだこともない。日本批判のネタをバラまく韓国の「告げ口外交」「事大主義」と同様のことを、朝日は紙面を使ってやっている。「御注進メディア」の注進相手は中国や韓国だけでなく、国際社会という名の「戦勝国」なのだ。

 そうでありながら、朝日が「日本のためにやっている」などと白々しいことを言うのは、もはや「お前のためだ」と言いながら暴力をふるうDVや体罰そのものだ。
 朝日は右傾化や歴史修正主義の動きを心配するが、そう見える論調の多くは「反朝日新聞」にすぎない。求めているのは、いうなれば「朝日史観の修正」であり、今回の「吉田清治証言の撤回」もその一つだった。
 だが、朝日は自らの存在を消して「慰安婦問題を否定する日本人がいる」と書き、全世界に報じる。実際には、それらの人々が「(朝日が言うような、組織的強制連行を行ったとされる)慰安婦問題はなかった」と言っているにもかかわらずだ。もちろん、保守側にも論争時の「丁寧さ」は求められる。時として、朝日と同じように( )内を省いて「〇〇はなかった!」と言ってしまい、「過去を全肯定しようとしている」かの誤解を受けていることの自覚は必要だ。 「日本で過去を正当化する歴史修正主義が熱を帯びている」と海外へ細かい事情抜きでストレートに報じられれば、確実に日本全体にとって(保守派も望まない)不幸な結果を招く。

 経済学者・池田信夫氏の〈慰安婦問題を「日本の戦争は正しかった」という話にすることは、問題を「歴史を直視しない右翼の攻撃」にすり替えようとする朝日新聞の思う壺〉との指摘は、保守派も常に頭に置くべきだろう。
 一方、朝日も、自身があまりにも戦勝国理論を押し付けたことで吹き出した反撥を「戦前回帰」などと批判しながら、自分の責任は顧みない姿勢を改める必要がある。
 慰安婦問題では自らが「強制連行」の火種を灯しながら「女性の人権が問われている」と論点をすり替え、「これは世界的傾向であり、撤回はならない。反論すればより国際的立場が悪くなる」と脅す。
 この卑怯な態度が批判されていることに気づかないふりをし、「歴史を直視したくない人たちが慰安婦の存在そのものを否定する」などとを重ね、「そんな態度は国際社会では通用しない」などとしたり顔で批判する。このようなマッチポンプで日本を貶めるのは、もうやめるべきだ。

→ 次ページ「保守派の『無念』」を読む

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西部邁

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コメント

    • ろんどなー
    • 2014年 11月 14日

    今まで読んだ朝日批判記事の中で最も的を得た内容で著者の慧眼に敬服する。特にGHQ通達リストを引き合いに出した朝日思想の説明は誰もが納得するしかない。梶井彩子の言論界での今後の活躍を大いに期待する。

    • kenzaburou
    • 2014年 12月 13日

    全く同感です。
    薄々感づいていた事を綺麗に解き明かして頂き感謝します。
    尚、朝日は生まれ変わる必要もなく、廃刊こそ妥当だと思うところです。

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