テロとグローバリズムと金融資本主義(その2)
- 2015/12/22
- 国際, 社会
- 29 comments
ところで、IS関連報道で気づくのは、テロ現場の実態や入り乱れた国際間の緊張関係や紛争地域の戦闘状態について書かれた記事は多く見られますが、IS域内の住民の生活実態についての公正中立な報告がたいへん少ないことです。
以下のようなものは、わずかながらありますが、初めのものはシャルリー・エブド事件以前のレポートで、内容が断片的ですし、後のものは、ISが首都としているラッカではなくイラクのモスルを取材したもので、あまり全貌をとらえたものとは言い難い。うち続く戦闘と混乱のさなかにある地域としては、こんな光景はISの支配以前から見られたものだったのではないかと思われます。
http://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2014/10/1029.html(NHK/2014.10.29)
http://www.asiapress.org/apn/archives/2015/09/29034455.php
もちろんこれには、正式に取材許可を得たり、長期にわたって潜入したりすることが困難であるという事情があるでしょう。しかし、多くの場合、テロ事件の現場報道や戦闘員の生態を取り上げることにジャーナリストのエネルギーのほとんどが費やされているために、普通の住民の生活実態に探りを入れようという問題意識が希薄なためではないかと思われます。つまり、そこには、米英仏などが世界中にまき散らした「IS=残虐なテロ組織」という単純なイメージのバイアスが大きくかかっているのではないかと考えられるのです。
ISの統治者たちはイスラム原理主義によって、「繁栄し堕落した頽廃と享楽の都」を否定し、厳格な宗教国家を作ることを目指しているわけですから、「残虐なテロ組織」のイメージを始めに流布させたのはもちろんIS自身です。「神の教えに背く者は必ず神によって裁かれる」という固い信念に基づいて、その残虐さを見せしめのために誇示する。これは当然と言えば当然でしょう。しかし他方で、その残虐な部分だけを抽出して、もっぱら「IS=生命と自由と人権を否定する悪魔の組織」というイメージだけを流布させてきたのが、豊かな先進国(特にキリスト教国)であることもまた疑えない事実です。
ところが、そうしたイメージ戦略にもかかわらず、ISの宣伝戦略もそれに優るとも劣らぬ巧みさを示しています。インターネットの利点を活かしてヴィジュアルなカッコよさを演出し、純粋な道義心と闘争心にたけた貧しい青少年の感性を刺激することで、見事に勧誘に成功しています。また、自分たちの振る舞いがいかにコーランの教えに忠実であるかを説くことによって、世界中のムスリムたちの心を惹きつけ、これに対する共感を呼び起こすことにも成功しています。
アメリカ、カリフォルニア州の福祉施設で起きた銃撃事件の犯人夫婦は、IS要員ではなかったようですが、ISの思想にシンパシーを感じて犯行に及んだことは明らかです。またあるブログ記事によれば、2014年に行われた意識調査で、フランス人の15%、18~24歳の若者の27%がISに共感すると答えており、フランス国内のムスリムのなんと69%(414万人)がISを支持していると答えています。
なぜパリでテロが起きたのか(その1)
フランスが抱えるイスラム化問題
私はけっしてISを支持するためにこんなことを言っているのではありません。なぜIS領域内の住民の生活実態や生活意識がどうなのかを問題にするのかというと、ISの支配地域は一説に1000万人、少なく見積もっても800万人の人口を抱えており、その人たちがすでに数年にわたって日常生活を続けているわけです。この膨大な人口は、スウェーデンの人口にほぼ匹敵します。このことにきちんとした視線を注がないと、現在、世界で起きていることを正確に認識できないと思うからなのです。それは、ISの直接の敵対勢力である欧州の自衛キャンペーン、「とにかくテロの撲滅を!」というスローガンに安易に迎合することを意味します。そうしてそれは同時に、グローバリズムがもたらしている深刻な世界矛盾に目をつむることにつながるのです。
ISは戦闘員だけがいるのではなく、イングランドに匹敵するだけの支配地域を持ち、すでに、統治機構や銀行もあり、住民から税金を徴収し、月に100億ドルの収益を上げる油田を持ち、不十分ながら電気、水道などのインフラも整っています。これをただのテロ組織と見なすのは間違いです。むしろ日本の戦国時代に、領国支配を成し遂げてその拡大を図っていた戦国大名たちにたとえれば、その実態に近いイメージが得られるのではないでしょうか。彼らもまた、領国内の住民に対して、一定の秩序ある統治を行っていましたね。
ちなみに飯山陽(あかり)氏の次のブログはたいへん参考になります。
「どこまでもイスラム国」http://blog.livedoor.jp/dokomademoislam/
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。