一人で泊まるラブホテルのススメ

 私が何を言いたいのかというと、従来のこの国における「一般の」ホテルというものは、そのほとんどが「夜型人間」の生活スタイルを全く考慮に入れていないものであった、ということである。つまりこの国の「一般の」旅館業は、「9時5時」で働く、「善良で模範的
な日本人勤労者」における生活スタイルを基準にしていて、そこから逸脱した「規格外」の自由人の生活行動を、全く考慮に入れていない教条的なものだったのである。

 その点、ラブホは実に配慮が行き届いており、前述の「サービスタイム」の他にも、例えば「宿泊」であっても、ホテルによってはチェックアウトが午後15:00に設定されていたりと、通常のシティホテル等(余程の高級でないかぎり)では考えられない利用時間を設定していることが、最大の魅力だ。

 また地域によっては、「◯◯時間保証」というシステムも近年のラブホ業界に顕著になっている。どういうことか。例えば「12時間保証」なら、チェックイン時間から12時間の滞在が保証されているという意味で、疲労困憊の明け方にチェックインして、そのまま泥のように眠っても、殆ど「寝過ごし延長」の危険がない、誠に素晴らしいシステムが充実しているのである(曜日により16時間保証とか、20時間保証というのもざらである、無論、地域のラブホ業界の慣習によって異なっているので注意)。このシステムならば、チェックイン、アウトという概念自体、そもそも存在していない。時間を気にせず気ままに入り、そこから起算した滞在時間に対価を支払う。本来のホテルの姿、といっても過言ではないのではないか。

 ラブホはこのように「規格外」の自由人の寝床として、最大の拠り所となっているのである。人は「9時5時」だけで働き、生きているわけではない。朝に寝て、夕方にむくと起きる人間もいる。その様な「枠外」の日本人が増えていたからこそ、ラブホの存在は近年より一層、重みを増しているのかもしれない。

カップ焼きそばは、人情の味がした

 前述したラブホの高付加価値性も特筆しなければならない。シティホテルのルームサービスは、殆どが高価な割に貧弱なものだ。その点、ラブホの食事メニューは種類も豊富で安く、充実している。ほとんどのラブホで「ウェルカムドリンク(無料飲料)」が付くのは、「一般」ホテルとは大きく異なる点だ。ラブホによってはこれに「お菓子」や「入浴剤」がついたりする。

 この部分は経営者のセンスが問われるのだが、私が過日単身宿泊した新宿区のラブホでは、「ウェルカムドリンク」の他に、「当ホテルからのサービスです。お二人でどうぞ」という張り紙と共に、何故か「カップ焼きそば」が無料で2個提供されていたのであった。カップルでラブホに泊まって、セックスの後に仲良く2個のカップ焼きそばをすする、という光景もシュールというか、微笑ましいというか、であるが、私はこういった経営者の心遣いがすごく嬉しい。この時は単身には2個は多いので、そのうち一個に備え付けの給湯器から湯を注ぎ、食した。どんなカップ焼きそばよりも美味しかった。私はこういう「土臭い」ラブホが大好きである。いかに高級なルームサービスよりも、私は2個のカップ焼きそばを「お客様へのサービス」と称して傍らに置く、その生活感に満ちあふれたセンスが、涙がでるほど嬉しい。

 一人でラブホに泊る、というと大抵の人は「えー!」という驚きを以って迎える。まだまだ、「一人で泊るラブホ」というスタイルは、この国で市民権を得ていないのかもしれない。しかし私は、工夫が籠ったラブホの数々の付加価値を決して見逃さない。かつての「連れ込み旅館」から現代的な「シティホテル」の両者の利点を吸収し、発展し続けるラブホに、私はこの国の未来を感じる。

 ラブホテルのフロントに居るおじさんやおばさんは、一部の例外を除いて、高級ホテルのそれとは比べ物にならないほど無愛想で、教育が行き届いていないことは認めざるを得ない。しかし、それが故に利用者は自由を手にしている。一人では大きすぎるジェットバスに入りながら、馬鹿みたいなアメリカの大衆映画をザッピングする自由が。その時に丁度、ドアチャイムが鳴り、またも無愛想なおばさんが25分前に9番の内線で注文した冷凍のたこ焼きを無言で運んでくる。しかしこれが又、とてつもなく美味い。時刻は朝の8時、窓を開けると街頭の雑踏が飛び込んでくる。サラリーマンがスーツ姿で足早に駅の方向へかけていく。世の中の始動とは裏腹に、これから眠りに入る「規格外」のボンクラを、ラブホは優しく包み込んでくれる。

→ 次の記事を読む: 一人で泊るラブホテルのススメ「実践編」

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西部邁

古谷経衡

古谷経衡評論家/著述家

投稿者プロフィール

1982年札幌市生まれ。立命館大学文学部史学科卒。猫派。著書に『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)、『反日メディアの正体』(KKベストセラーズ)、『ネット右翼の逆襲』『クールジャパンの嘘』(共に総和社)など多数。
Twitter @aniotahosyu|Facebook tsunehira.furuya
古谷経衡公式サイト http://www.furuyatsunehira.com/

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コメント

    • takeke
    • 2014年 4月 23日

    ASREADらしくない軽薄な記事ですね
    そもそも欧州などは深夜営業を禁止する国なども多いですよ
    24時間営業のコンビニなんて欧州では探す方が難しいです
    それと深夜労働勤務者は健康面で日中勤務者よりもリスクが高い
    という統計もあります

      • 菊千代
      • 2014年 4月 24日

      ここは日本だ。欧米ではない。

        • takeke
        • 2014年 4月 24日

        >ここは日本だ。欧米ではない。

        それは私にではなく、この記事を書いた人にいうべきでしょう

        >日本のビジネスホテルの教条性が原因なのである。

        と記事上で批判してる訳ですからね

          • milkcafe
          • 2014年 4月 24日

          いや、どうみても君に向けられるべき台詞だよ

            • takeke
            • 2014年 4月 24日

            なにか批判が多くてびっくりしてるんですが・・・

            私には筆者の主張は
            「日本のビジネスホテルは遅れている(外国等に比べて)規格外勤務の労働者に対応していないから」

            こういう風にしか読めないのですが?

            ここは日本だ!!といのは、私が言いたい台詞なんですが・・・

      • 2014年 4月 24日

      その「欧州は日本より常に正しく素晴らしい」的な発想はどこの宗教の教えですか?
      24時間コンビニないんですか、欧州。それは残念。日本人でよかったよかった。
      深夜勤務はリスクが高い?ほうほう、だから?リスクが高いから深夜勤務は禁止にしろと?
      ではリスクの高い職種も全て禁止にしにければなりませんね。
      今回の記事、僕は面白かったです。まだ1人でラブホに泊まる根性はないですがww

        • takeke
        • 2014年 4月 24日

        私は欧州を素晴らしい、などと一言もいったことはないですね

        むしろ日本は規格外の労働者を許容しない、と日本批判の記事としか思えないんですが?
        違いますかね?

          • 2014年 4月 25日

          じゃあ「そもそも欧州は」なんて例え話がなんで出てくるの?なんで?ねえ、なんで?もしかして「欧州は不便だ。筆者の提言は真に正しい」と言いたかったのですか?それは意図を汲めず申し訳ない。
          だいたい筆者さんはこうすればもっと便利になるのにと言ってるだけでしょうに。それを日本批判と受け取る方がどうかしてんじゃないですか?僕もホテルのチェックイン、チェックアウトの時間にはもっと柔軟性があったらいいのにと思いますよ。

            • takeke
            • 2014年 4月 25日

            あんまりコメ欄にしつこく居座っても迷惑でしょうから
            これで最後にしますが

            日本のビジネスホテルが批判するなら、では欧州では?という事例を持ち出しただけですよ。規格外の労働者を許さないのは、日本のホテル業に限った話ではないと。
            日本のホテルの教条主義だの、規格外の自由な労働者を許さないだの
            これが批判ではなくてなんなんですかね。

            利便性うんぬんですが、ホテル側に余計な負担を課すことは、従業員にとっては重荷になると思うんですがね。過剰サービスや深夜労働などはブラックの温床となると思いますね。

      • iemon
      • 2014年 4月 24日

      筆者がしてるのは、日本の話。
      正直頭の悪い批判。

      • why
      • 2014年 4月 25日

      軽薄?
      書いてる内容をどんな風に解釈するのも個人の自由ですが
      それを元に訳知り顔で斜め上の批判してうんちくまで垂れる方がよっぽど軽薄ですね

    • Buzz
    • 2014年 4月 24日

    ASREADであまり見かけない、軽薄なコメントですね。

    この記事の著者は、「これまでの概念を取り払う」ことを主張しているのであって、欧米との比較で批判しているわけではないと思います。

    「日本の型にはまったbusinessstyleも、サービスの向上には役立ってますよ」という見解であればわかります。

    • BJ
    • 2014年 4月 24日

    ホント、軽薄な記事ですね。

    • 2014年 4月 26日

    別にコメ欄に居座っても誰も迷惑しませんよ。なるほどなるほど、ビジネスホテル批判は日本批判だと。ふむふむ。

    では日本のラブホテルをやたら筆者がヨイショしているのは何なんですか?これも日本批判なんですか?接近サービスの悪さを補って余りあるラブホのサービスと、筆者は絶賛しておりますが…。
    日本批判なら「日本のビジネスホテルときたら!海外のホテルを見習いなさい!」と来ないとしっくりこないでしょう。日本のビジネスホテルを批判しながら日本のラブホテルを持ち上げる。これで日本批判になるんですか?せいぜい業界批判でしょ。
    それにブラック企業の問題ですが、消費者が便利を追い求めたらブラックになるなら、世の中ブラック企業だらけになりますよ。そもそもブラック企業なんてデフレ不況の申し子でしょ。不況の中、消費者が金を出し渋りながら安くて過剰なサービスを求めるから労働者にしわ寄せが来るんですよ。問題は消費者が便利を求めることではなく、デフレ不況です。いい意味でデフレ脱却して需給関係が逆転すればブラック企業は淘汰されていくはずです。労働者は条件のいい所に転職していきますから。転職先がない不景気がブラック企業に大きい顔をさせるんですよ。

    • わん
    • 2014年 4月 29日

    中年バックパッカーの私には、旅人の視点から読むと
    いいこと言っているな。と思いますよ。
    ラブホテル=セックスする場の提供としての本来、経営者やサービス提供側が
    考えている。
    それを別の用途で使うと逆に違う価値もあることに気づく。という点でね。

    まっ。本流でないので、それを多くの人が使うということは無いと思うし
    それを多くの人が使うとまた違う市場が出て来るとも思います。

    • unk
    • 2014年 6月 29日

    ご自身の都合解釈でラブホを薦められてもねー。
    出張先でカラオケだったり、ウェルカムドリンクだったりそんなサービス求めねーよ。
    寝床とシャワーとフリーWifiがあれば十分。

    • 田中
    • 2015年 9月 23日

    深夜にお店が開いてる、深夜労働はあってもいいが、もうちょい割増率を上げてよ
    今の1.25倍じゃなく1.5倍くらい出してあげてよ。

    • 名無し
    • 2016年 1月 21日

    夜勤で出張がある人向けサービスとかマイナーすぎてやる価値ない。

    てかさ、この筆者は宿泊が目的ではないよな?なんか疲れて家まで帰るのだりーからちょっと寄ってこ的なノリでしょ?そんなことするならタクシーでさっさと帰りなさい。

    それとも映画とかカップ麺とかカラオケとか1人では大きすぎる風呂とかが目的なんか?
    だったらフツーにカラオケ、銭湯行って帰りにコンビニ寄って家でネットで映画みればすむはなしだろ?

    コメントについて、日本は職業選択の自由があるのだからやりたいやつがやればいいだけの話。国がとやかくいうことではない。

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