シン・ゴジラ 3.11から原爆へ、そしてまた3.11へ
- 2016/8/4
- 生活, 社会
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失敗
「東京への核攻撃」という強烈なイメージが提示された後、しかし「シン・ゴジラ」はその強烈なテーマを扱いきれないまま終劇を迎える。
ゴジラ(=放射能炉)の冷却、というミッションを与えられたオール日本チームは、民間・行政・政府が一体となってその任務を成功させる。最終決戦に向かう自衛官たちは、一見して明らかに原発作業員だ。マスクと対NBC防護服で身を固め、ゴジラとの戦いも戦車やミサイルではなく放水車とバルブで行われる。作業員たちの献身的な努力によって、日本は救われる──。
その結末を見たとき、僕は「惜しいな」と思った。
テーマがぶれてしまった。原爆というテーマと、徹底的に向き合うことができなかった。
陳腐化した「核の恐怖」というテーマを、「津波と放射能汚染」という現代的恐怖で蘇らせ、その起源である原爆を鮮烈なイメージで表現したまでは見事としか言いようがない。100点満点で10000点の出来だった。
しかし、最後は「原発の冷却」という、今日的で安っぽい題材でそれを誤魔化してしまった。
もちろんそこには「アメリカのゴジラへの核攻撃プラン」という、冷却に対抗する危機があった。一見すれば「原爆」というテーマを引き継いでいるようにも見える。しかし、それは虚構だ。
ラストシーン、主人公ら冷却されたゴジラを前に「これ(ゴジラ)とは付き合っていかなければならない」と述べる。本作のゴジラが「原発」の象徴であるなら「ごもっとも」と首肯することもできる。しかし、本作のゴジラは原子力発電所ではない。原子力爆弾だ。都市への無差別核攻撃という、原子力の軍事利用だ。
それと「つきあっていく」ことはできない。なぜなら核攻撃は冷却できないからだ。「民間・行政・政府の人材が力を合わせる」ことで対抗できるものでは到底ないからだ。オール日本が力を合わせても、超大国の核攻撃には絶対に対抗できない。
原爆というテーマを掘り出すことに成功したのに、それと徹底的に向き合うことには失敗した。それが本作への僕の考えだ。「原爆」を「原発」にすり替えて、うまくそれを誤魔化してしまった。
つくづく、惜しい。本当に、惜しい。
それでも「シン:ゴジラ」は最高の映画だった。
以上が「シン・ゴジラを、そのテーマ的側面から見たときの僕の見解だ。難しいテーマを扱いながら、それを視聴者に突きつけることには見事なまでに成功した。しかしそれと最後まで付き合うことには失敗してしまった。そういう「惜しい」映画だった。
さて、そういった堅苦しいテーマ面から離れたところにも少し言及しよう。本作の魅力は「核」だけではない。
まず魅力的な登場人物たち。特に僕のお気に入りは二人目の総理大臣、里見祐介だ。
一見無能なおかざり政治家として登場した彼は、作中で石原莞爾を引用するなど、その実、強烈なナショナリスト(≒パトリオット)であることが暗示される。フランスとの交渉に際し「ただ頭を下げ続ける」という日本的な交渉術で勝利を収めるところなど、古事記の朗読で相手を煙に巻いた高杉晋作などを連想させる感じもする。
登場人物の魅力を増幅させる、さりげない演出も良かった。
例えば石原さとみ演ずるカヨ子・パタースンが「ガッジィーラ」という英語風の発音が「ゴジラ」という日本風の発音に改められるシーン。
ちょっとアスペルガー気味?な環境庁官僚・尾頭ヒロミが最後「よかった」とはじめて笑顔を見せるシーン(リアル綾波かよ)。
「出世は男の本懐」と豪語してはばからない野心的な政調副会長・泉修一が「官房長官なら、いつでもなるからな」と赤坂の「後を頼む」というメッセージを婉曲に拒絶するシーン。
まだまだあるが、特に気に入ってるのはこのあたり。さりげなく、それでいてキャラクターの内面を深く表現する演出が多い。近年の映画(アニメ含む)はキャラクターの心情を全て台詞で説明するような作品が目立つが「シン・ゴジラ」の演出は、それらとは真逆をいくものだった。素晴らしい、の一語だと思う。
【まとめ】
長くなったしもう午前4時なのでそろそろまとめよう。
まずもう断言するのは、今回のシン・ゴジラは傑作だ。今後30年は、絶対に記憶される作品になる。エンタメとしての、怪獣映画とても質が高い。ちょっと小難しいしグロテスクだが、創作物に日頃から触れている人なら確実に楽しめると思う。
そして、シン・ゴジラはどうしようもなく「惜しい」作品だった。テーマが途中でぶれてしまった。もし、原爆というテーマに最後まで向き合い続けることに成功したら、100年残る作品になったと思う。
4年前の「エヴァQ」の時怒り狂った僕だったが、完全に手のひらを裏返している。。庵野監督はもうエヴァ作るのやめてずっとゴジラつくろ。
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