グローバル“競走”が全てではない — 箱根駅伝を通じて「国力」の意味を考える

駅伝擁護論

 まぁ、そう言われればそうなのかも知れないなと、素人考えですが納得してしまう話ではあります。しかし上記の京都新聞の特集には、これに対する反論も掲載されていました。
 たとえばアテネ五輪金メダリストの野口みずき(シスメックス)選手は、「駅伝は仲間と気持ちが一つになることで、お互いの力をより高められる。目に見えない力がわいてくる。駅伝の良さを感じ、そこで得た経験を、それぞれのレースで生かせるように頑張って欲しい」と言っています。
 野口選手の監督をしていた藤田信之氏も、「走る選手や応援の人の多さなど、企業側から見るとマラソンより駅伝の方が盛り上がると感じているようだ。駅伝がなくなれば、チームを持つ企業はなくなるのでは。駅伝があったから長距離人口が増え、底辺が広がった。底辺が広くなければ高い山は築けない」と反論しています。
 結局のところ、マラソンにも駅伝にも良いところがあるので、どのようなトレーニングをしてどのようなレースに出場するかは、長期的な育成を念頭に置いて指導者と選手が自分たちで判断すればよく、駅伝という競技そのものが悪いわけではないというわけです。こうした反論も確かに、言われてみればそうだよなと思ってしまいます。
 インターネット上では、元陸上選手である武井壮氏の、箱根駅伝は国民を大いに楽しませているのだからそれに人生をかけて何が悪いのかと訴える記事が話題になっています(武井 壮 – 箱根駅伝が終わった。。)。
 武井氏は、「スポーツに社会的、経済的価値が生まれるには『多くの人に見てもらえる事』が絶対条件。テレビで中継されたり、新聞、雑誌、ニュースで大きく取り上げられたり、多くの観客が訪れる必要があるわけだ」「力が魅力になるには多くの人を魅了する事が必要です。競技を楽しんでもらう事は、その競技のレベルの高さだけでは叶わない。競技レベルが高いのに評価されない、と嘆く選手やマイナー競技は、競技への努力に比べて、人を楽しませる努力が足りてないのだと思う」と言います。
 私自身は、お祭り騒ぎ的なイベントが好きなわけではないのですが、スポーツに何か神聖な価値を持たせようとする議論に比べれば、武井氏のような現実主義的な主張のほうが説得的であるとは思います。

「ガラパゴス的」競技の価値

 生島氏は駅伝を「ガラパゴス的」な(つまり国内に閉ざされている)競技と呼んでいますし、上に紹介した駅伝批判論も「世界で勝つこと」を意識して国内の駅伝偏重をやめるべきだと言っているのですが、ガラパゴス的競技で国民がこれだけ盛り上がることができるというのは、それはそれで特筆すべきことだとも言えます。
 たかだかスポーツの話なので、「開国論と鎖国論」みたいな大げさな比較をしても仕方ないでしょうが、イメージとして言うと、江戸時代のように鎖国していても豊かな文化を築くことができたことと、「国内でしか通用しない競技の、しかも関東ローカルの学生大会で、国民が大いに盛り上がれる」ということが重なって見える面はあります。鎖国していても盛り上がりがあって、特段開国の必要性が感じられないというのは、それはそれで幸せなことなのではないでしょうか。
 他にも分かりやすい例として、高校野球というものがあります。甲子園大会は年に2回の国民的行事ですが、世界的にはまったく流行っていない「野球」というスポーツの、しかも日本国内の地域対抗戦に過ぎません(厳密に言えば「地域対抗」というより「地区予選を勝ち抜いたチームによる全国大会」ですが)。その割に、人によってはプロ野球よりも熱心に観戦しています。
 もちろん、オリンピックやサッカーのワールドカップのように、世界を舞台に国旗を背負って戦う大会は面白いです。ああいう擬似戦争のようなスポーツイベントは、人間の野蛮な本性をくすぐるところがあるのでしょう。ただ、それらが面白いのはいわば「当たり前」です。むしろ、「国内でしか通用しないスポーツを国民がどれだけ楽しめるか」を、国内文化の厚みや豊かさを示す指標と捉える視点も必要なんじゃないでしょうか。

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西部邁

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  1. 2014年 1月 13日
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