アベノミクスで所得が増えない理由とは

小屋

去年一年間、安倍首相はアベノミクスという経済政策を掲げ、一定レベルの成果を収めたかのようにも見えます。株価は上昇し、デフレの状況を示す各指標も随分と改善しました。

しかし、デフレから脱却出来たわけではなく、中小企業や地方経済などにはまだまだ深刻な問題が残されています。特に重要な問題点の一つが、労働者の給与が上がらないことだと思います。

法人税減税は所得減の圧力となる

経済アナリストの森永卓郎氏は下の記事で、日本の経済状況を次のように分析しています。

 財務省が発表した2013年4~6月期の法人企業統計を見ると、大企業の経常利益は前年同期比で約50%増となっています。一方、中小企業の経常利益は同13%減と、大企業と中小企業では大きな業績格差が出てしまっています。

 その中で、厚生労働省が発表した毎月勤労統計によれば、9月の現金給与総額は前年同月比0.1%増。事業所規模30人以上の製造業で見ても、同0.9%増と微々たる増加でしかありません。つまり、前年より経常利益1.5倍とボロ儲けしている大企業でも、賃金はほとんど増えていないと捉えられる。中小企業はいわずもがなでしょう。

 何が起こっているかというと、金融緩和などでお金は市中に溢れたが、それが労働者には回っていない。その一方で、資本家、企業の内部留保が劇的に増えているということです。
出典:森永卓郎氏 格差拡大で「年収100万円時代」の到来を予想 – SNN(Social News Network)

森永氏は、企業収益が改善しているのに労働者の給与は上がっていないと分析しています。しかしそんな中、安倍首相は復興特別法人税の一年前倒し廃止や法人税減税を検討しています。安倍首相は、法人税減税で企業収益がさらに改善することで賃金の引き上げにつながる、と述べているわけですが、本当にそうでしょうか。私はそうは思いません。むしろ法人税減税は企業の内部留保のインセンティブを高め、従業員への給与引き上げの意欲を低下させる可能性があります。この問題については、以前、私のブログで考察していますので、よろしければご参照ください(『法人税減税の問題点を考える』)。

これは、あまり触れられない点であるが、法人税減税は企業の内部留保にお金を回すことのインセンティブを高めるのである。物事をわかりやすくするために非常に単純化した説明を行うと、例えば、法人税が30%であれば、企業の内部留保に回したうち3割が税金で取られることになるが、一方で法人税が80%の場合であれば、企業が内部留保に回したお金のうち8割が税金で取られることになる。相対的な比較で見た場合、法人税が30%の場合であれば、経営陣は先々の事を考えできるだけ内部留保にお金を回しておこうと考えるかもしれないが、一方で法人税が80%の場合では8割も税金でお金を取られるくらいなら、むしろ将来の成長のために投資をしたり、優秀な人材を確保するため人件費を上げたり社員の待遇を改善したりしようとするだろう。

 つまり、非常に単純化して考えると、法人税は上げれば上げるほど企業の側からすると、投資や従業員の賃上げに対するインセンティブが高まり、逆に法人税を下げれば、企業はお金を溜め込もうとする。

つまり、法人税減税で労働者の賃金を引き上げる戦略は失敗する可能性が高いのです(投資減税や従業員の待遇改善を紐付けた減税ならうまくいく可能性がありますが、そもそも法人税減税自体に賃金引き下げ効果がある以上、そのような変則的な減税を行っても効果は限定的かと思われます)。

→ 次ページ:「様々な要因がデフレへと導いている」を読む

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西部邁

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コメント

    • 萩原 和紀
    • 2014年 1月 05日

    いつも拝見させてもらってます。
    安倍総理の経済政策は竹中氏を中心とした新自由主義そのものだと見ています。新自由主義は内需の成長が望め無いと思い込み、国外に利益を求める膨張主義、「人の全ての行為は商品的価値に換算できる」という視野の狭い価値基準を有しているという点で共産主義、帝国主義と同根ではないのかと危惧しております。私は安倍首相の経済政策以外は支持するもので、経済さえなんとか考え直してもらえれば良いと思っております。

      • 高木克俊
      • 2014年 1月 06日

      そうですね、私自身安倍首相の描く国家のビジョンと、現実に行っている経済政策における拝金主義的な性格とのギャップには戸惑っています。
      「安倍首相の描く国家のビジョンの中で、経済の問題をどのように位置づけるべきか?」
      というような包括的な視点が欠如しており、なおかつそのような問題を指摘するようなブレーンが周囲にいないのではないか?と個人的にはそのように感じています。

    • cms
    • 2014年 1月 05日

    >法人税減税は企業の内部留保にお金を回すことのインセンティブを高めるのである。物事をわかりやすくするために非常に単純化した説明を行うと、例えば、法人税が30%であれば、企業の内部留保に回したうち3割が税金で取られることになるが、一方で法人税が80%の場合であれば、企業が内部留保に回したお金のうち8割が税金で取られることになる。相対的な比較で見た場合、法人税が30%の場合であれば、経営陣は先々の事を考えできるだけ内部留保にお金を回しておこうと考えるかもしれないが、一方で法人税が80%の場合では8割も税金でお金を取られるくらいなら、むしろ将来の成長のために投資をしたり、優秀な人材を確保するため人件費を上げたり社員の待遇を改善したりしようとするだろう。

    あまり言われないことである理由は、それが間違っているからですよ。
    法人税30%と法人税80%の両者でパイのサイズが変わらなければそのようなことがあるかも知れませんが、
    実際には法人税80%では(株主の収益が低下して、またそれと銀行融資が裁定して、資金調達コストが
    上がることなどから)企業の生産規模が落ち込みます。一般にはこちらの影響の方が大きい。

      • 高木克俊
      • 2014年 1月 06日

      えー、このような問題については、リンク先で中野剛志さんの議論を引用しているので参考にしてもらえればと思います⇒『法人税減税の問題点を考える』http://achichiachi.seesaa.net/article/375490834.html

      簡単に説明すると、現在のデフレの原因の一つとして企業の内部留保が国内の投資や労働者の所得に分配されないことを挙げていますが、法人税を下げても内需の拡大に回らないと現状においては、むしろ、法人税として政府が資金を吸い上げて、政府主導の公共投資等による内需拡大政策を行ったほうが経済のパイは大きくなるであろうという議論について紹介しています。

    • yammar
    • 2014年 1月 21日

    こちらが参考になると思います。
    http://anond.hatelabo.jp/20131228022318

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