なぜ保育園を増やしても子供の数は増えないのか ~少子化問題の本当の原因~

「日本死ね」騒動に対して、言いたいことは色々あるのですが、まぁこれだけは言わなきゃならないだろうというメッセージがひとつだけあるので僭越ながら伝えさせていただこうと思い本稿に手を付けました。

メッセージは本当にひとつだけです。

「保育園を増やしても子供の数は増えません」

保育園の数は増え続けている

まず第一に、認可保育園の数は一貫して増え続けています。

hoiku_1
(ソース:厚生労働省 保育所関連状況取りまとめ)

厚生労働省によると、平成18年から平成25年の7年間で、事業所数は22,699箇所から24,038箇所まで増大しています。利用児童数においては2,004,238人から2,219,518人と、なんと10%以上も上昇しています。統計データを見ると、保育園は増えているし、利用している人の数も増え続けているのです。「死ね」とか言わなくても官僚の人たちは地道にがんばっていたのです。

さて、その結果、少子化にストップはかかったのでしょうか。
以下は日本の合計特殊出生率と出生率のグラフですが、特段動きは見えません。保育園数の増加という事実と、出生数は全くリンクしていないように思えます。

hoiku_2
(ソース:平成25年人口動態統計月報年計(概数)の概況 )

平成18年の合計特殊出生率は1.32、平成25年の合計特殊出生率は1.43、確かに微増していますが、保育園数の増加と全く無関係に伸びている(保育園数がほぼ横ばいだった平成18年から平成21年の間に1.32から1.37まで伸びている)ことから、保育園数の増加と出生率の間に相関はないと考えられます。

保育園数の増加から数年のタイムラグを開けて出生率が上がり始めるという仮説を立てることもできますが、平成23~25年の保育園大増設を経て4年たっても出生率にさしたる変化は認められません。(11年が1.39、12年が1.41、13年が1.43、14年が1.42)。

つまり、保育園は増えているし、保育園を増やしても少子化は改善しないのです。

夫婦一組あたりの子供の数は(あまり)減少していない

そもそも少子化の原因は子供の養育環境にあるのでしょうか?

興味深い数字があります。「完結出生児数」の推移です。

「完結出生児数」とは、夫婦一組あたりが生涯にどれほどの子供を産むかという数字です。76年前の調査開始時から2005年までの調査では、以下のような数字が出ました。

hoiku_3
(ソース:国立社会保障・人口問題研究所

見ての通り、少子化が深刻化した70年代以降あまり変化していません。

もちろん減少しているには減少しているのですが、合計特殊出生率がこの30年で0.6ポイントも低下していることを考えると、40年近く2.0付近から動いていない完結出生児数の変化は極めて緩やかだと言えそうです。

完結出生児数は変化していないのに、出生数はとんでもない勢いで減少している。

つまりここから導き出せるのは、夫婦一組あたりの子供の養育数は、少子化の根本的な原因とは言い難いということです。

もし保育園が無限に設立され、全ての夫婦が気軽に子供を作れたとしても、少子化問題は解決しません。なぜなら少子化の根本的な原因は完結出生児数(夫婦がどのくらい子供を作るか)にはない、子供の養育環境にはないからです。

僕が「保育園落ちた日本死ね」騒動に懐疑的な理由は、ここにあります。

「日本死ね」騒動のアジテーターたちは、明らかに少子化問題とは違う問題を、無理やり少子化問題にこじつけて正当化していると感じます。不誠実ですし、無意味です。保育園数増加の財源をどこから持ってくるかを考えれば、逆進性すらあるのではないかと思います。

→ 次ページ「少子化の本当の原因は婚姻数の減少」を読む

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西部邁

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コメント

  1. 残念ながらこの議論には1つ穴があるように思いました。
    若い人たちが
    「非正規が増えて夫の収入が下がったから妻は一生働かないといけないけど、保育園の受け入れ枠は非正規の増大に匹敵するほど増えてないから子供が埋めそうもない。だったら結婚やめよう」
    と思っている可能性はないのでしょうか?
    もし、そうだったら(絶対にそうだと言っているわけではなく、そういう可能性も考えるべきだというだけですが)保育園を増やせば結婚して子供を産む人が増えたりしないでしょうか?

    もうちょっと若い人の気持ちに寄り添って記事を書いて頂けると嬉しかったです。

      • ががが
      • 2016年 6月 20日

      >若い人たちが
      「非正規が増えて夫の収入が下がったから妻は一生働かないといけないけど、保育園の受け入れ枠は非正規の増大に匹敵するほど増えてないから子供が埋めそうもない。だったら結婚やめよう」
      と思っている可能性はないのでしょうか?

      ちょっと無理があると思います
      結婚しても子供を産まなければいいだけで保育園の心配で結婚を見送るなど聞いたことがありません
      普通に考えて結婚の判断と保育園の充足とは関係がないでしょう

  2. よくできたまとめで殆どの点では自分も以前から同じ意見を持っているが、未婚率の上昇原因としては若年男性の収入減よりも見合い結婚の減少の方が影響度は大きい筈。

    http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2005/01/pdf/016-028.pdf
    「出生動向基本調査」 における夫妻の出会いのきっかけに関するデータを用いて, 過去 30 年間の初婚率の低下量を要因分解したところ,低下分の約 5 割が 「見合い結婚 (親せき・上役の紹介を含む)」 の減少によって, 4 割近くが 「職場や仕事の関係で」 の結婚 (職縁結婚) の減少によって説明できることがわかった。

    http://www.garbagenews.net/archives/1660558.html
    逆にいえば日本の戦後しばらくまでの婚姻率、そしてそこから連動する形での出生率の高さは、お見合い結婚によって維持された面が大きいことになる。

    仕事をしたら“恋愛のナゾ”が解けてきた(1):なぜ“普通のオトコ”は、なかなか見つからないのか? (5/6) – Business Media 誠 http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1204/26/news005_5.html
    土肥:なぜ未婚率が上昇しているのでしょうか?

    西口:まず出会いの機会が減っていることが挙げられますね。1960年代から2000年代前半までで、結婚にいたった出会いのきっかけを聞いたところ、60年代~70年代にかけては「お見合い」が多かった。しかし80年代以降、急激に減少しました。

     2番目に多いのは「職場恋愛」。「お見合い」ほどではありませんが、「職場恋愛」も減少傾向にあります。会社では「コンプライアンス」「セクハラ」などがうるさいので、職場で女性を飲みに誘って、人事に報告されればつらい立場に置かれてしまう。こうした理由で、職場恋愛も減ってきているのでしょう。

     唯一、健闘しているのが「友人・兄弟などを通じて」。合コンや結婚相談所などもここに含まれのでしょう。結婚式の披露宴で「新郎と新婦は合コンで、とか、結婚相談所○○で知り合って……」などとは紹介しませんよね(笑)。多くは「友人のご紹介で……」と紹介しているのでしょう。

     歴史を振り返ってみると、「お見合い」というのは重要な社会インフラのひとつであったことが分かります。ちなみに彼氏・彼女がいない人で「自然な出会い」を求めているケースがありますが、「自然な出会い」は昔も今も少ない。例えば「学校の同級生」「街中で」「サークル/習い事で」「アルバイトで」というのは、昔も少なければ、今も少ないですね。結婚する人が減少した理由のひとつに、社会インフラの「お見合い」が減少したことが挙げられるでしょう。

  3. 最近の傾向として
    ・出生率微増
    ・保育所利用数増加
    ・婚姻率微減
    のようですが、
    これで何故「少子化原因は婚姻率・保育所は無意味」となるのかわかりません。

  4. ほとんど同じ論旨&具体案が下記のエントリー(漫画)に紹介されています。

    http://ameblo.jp/p-manjiro/entry-12151886174.html

    少子化対策に興味のある方はぜひどうぞ。

    • ああああ
    • 2016年 6月 18日

    出産←結婚←【仕事】

     民間の給与所得の減少(統計)と不安的化(非正規雇用、ブラック企業、増加)

    政府の対策
     待機児童対策と女性の支援
     
     待機児童は出産後、また、一部の地域のみ、しかし、少子化は日本全国、女性の支援について不要範囲内の労働需要は豊富にある。
     
     公務員に少子化はない、それは給与の安定、少なくない。つまり、政府は少子化対策ではなく少子化推進対策である。

    • ががが
    • 2016年 6月 20日

    その通りだと思います
    で、婚姻数の低下の原因は若者の草食化と収入の減少であると思います
    収入の低下は否定するわけではないですが女性の社会進出が原因でしょう、経済のキャパが広がらないで労働人口がいきなり倍になったのですから雇用の奪い合いになり賃金は低下します
    これが日本の不景気のひとつの原因ではないでしょうか
    女性の社会進出にはメリット、デメリットの両方があるのだと思います、要は事を急ぎすぎた つけ ではないでしょうか
    就労形態など簡単に変えれないので女性が外で働く分、男性は専業主夫として家庭に入らなければ雇用の奪い合いになります、でも大黒柱にはなりたがらない女性の方が圧倒的に多いでしょう
    結果、男性も女性も外で働き雇用の奪い合いになり賃金は低下、仕事により結婚への意識も遠のき、男性の収入も下がり未婚化晩婚化。
    これが日本の少子化の原因だと思います

  5. まず、皆さんが根本的に勘違いしているのが、
    未婚問題は、恋愛慎重派「だけ」の問題だという認識が抜けている事ですね。

    恋愛積極派(全体の1/3)は、それ自体が人生の目的なので、
    ナンパも日常茶飯事でやるし、仕事場でも積極的に交際相手を探すし、
    キャバクラでも口説き口説かれる。
    そういう場でいくらでも出会いがあるんです。
    だから未婚問題も晩婚問題も関係無い。
    ※積極派は、結婚後に浮気を繰り返して平均1回は離婚するのが大前提です。
     3割(=積極派の数=全婚姻数の半数)は離婚し、そのうち1/3の子供が貧困になる。

    慎重派が結婚出来ないのは、交際に結び付く出会いが無いからです。
    いくら収入を増やしたとしても、無駄です。

    特に深刻なのが、東京に就職で転入して来た人の未婚で、
    転居により若い頃の人間関係が切れる影響もあり、
    慎重派は大部分が生涯未婚になっています。
    これが東京都だけが極端に出生率が低い原因です。
    地方の優秀な人材が東京に出て来て、子孫を残せない。
    これでは少子化以前に日本人の遺伝子が劣化してしまいます。

    男性で年収が低いと、婚活で不利(と言うかほぼ今の婚活は無理)というのはあります。
    現実には、年収300万あれば、結婚生活は十分出来ます。
    共働きで600万あれば、贅沢をしなければ都心でも暮らせます。

    「カフェ・ジャパン」プロジェクトでは、
    そういう人達でも負い目無く婚活出来る場所を作る事を提唱しています。
    慎重派は、先に人間関係が出来ないと、交際を決める事が出来ません。
    婚活パーティーや結婚相談所でいくら頑張っても、相手を見極められる訳がないんです。
    繰り返し会える場所を作る事により、男女の区別も無く自然と人間関係が構築出来る。
    頑張らなくとも日常生活を楽しみながら自然に結婚相手に巡り合う。
    税金の垂れ流しも必要ありません。子供が増える分、子育て予算は増えますが。
    地域問題の解決にもなります。
    それが日本の少子化問題を完全に解決する唯一の方策です。

      • 軍師
      • 2016年 7月 13日

      当コメントの公開、有り難うございました。m(_ _)m

    • 富士
    • 2016年 7月 31日

    これはすごく大切なポイントだと思います

    少子化は男性の年収の低下のせいだった(家庭を養えないレベルの)
    20代で年収250万以下がもっとも多く、30代でも年収300万円台から脱却できない層が最も多い

    逆に、少子化に対するまちがった意見を述べる人もたくさんいます
    ・保育所が少ないせいだ
    ・男性の草食化が悪いんだ
    ・教育が悪いんだ
    ・育児休暇の取得が少ないせいだ

    大手の新聞社、テレビ局ですらこんな報道をしてるレベルです

    若い男性の低賃金化(家庭を養えないレベル)という視点を国のトップにももってほしいです

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