「マッドマックス」は単純なフェミニズム礼賛映画ではない
- 2016/3/10
- 文化, 社会
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マッドマックスは『戦う女性』の勇ましさ・強さを描いている
これも論をまたない視点だろう。
マックスと並ぶ女主人公であるフュリオサはマックスと同じかそれ以上の戦士であり、後半登場する「鉄馬の女たち」もイモータンジョーの兵士たちに勝るとも劣らない卓越した兵士として作中で活躍する。
特に中盤、狙撃銃で敵を狙撃するシーンはこの映画の中での屈指の名シーンのひとつだ。
マックスはライフルで敵を狙撃するが、射撃が下手なのか全く当たらない。
そこでマックスは今まで自分が独占していた銃をフュリオサに渡し、銃の台座として自分の肩を預ける
「銃を撃つ男を女がサポートする」という絵面は今までの映画に溢れていた構図だが、「銃を撃つ女を男がサポートする」という絵は今作がもしや始めてではないだろうか。
男だけがヒーロではない、女だって戦える。
こうした面が強く強調された今作は、男性中心のきらいがある英語圏の映画文化の中では特に際立っている。
…さて、ここまでの描写を読むと
「マッドマックスってやっぱ女性のエンパワーメントを主題とした映画なんじゃないの?」
という感想を抱くと思う。それは正しい。しかし間違っている。
実際、この前者2点はこれでもかというほど作中で強調された部分であり、いわば「表テーマ」としてマッドマックスを彩っている。
しかし、マッドマックスには「裏テーマ」がある。
上記2点のように強調はされていないが、さりげなく画面の中に盛り込まれた視点が数多くあるのである。
まぁマッドマックスに限らず英語圏の映画の製作方式として「誰にでもわかる面白さ」と「よく見なければわからない面白さ」を盛り込んで一見さんと映画オタクどっちも満足させよう、みたいな方式があるのだが、マッドマックスはそれがさらより強く練りこまれた作品だ。
「パッと見て面白い超解像車や火を噴くギターや大爆発」の裏に「父権主義的男性社会への批判とフェミニズム的女性のエンパワーメント」という表テーマが隠れておりさらにこれから説明する「裏テーマ」が隠れている。いわば三重構造だ。
順を追って説明していこう。
マッドマックスは男性社会の「男にとっての」息苦しさも描いている
「男が女を虐げる」描写において余念のないマッドマックスだが、実は「虐げる側の男たち」の苦悩も合間合間に描写されている。
マッドマックス世界において虐げる側の男といえば我らが不死身の英雄イモータン・ジョーだが、彼こそがその最たる例だろう。
まずはイモータンジョーの鎧に注目したい。
ジョーの鎧は「筋肉」なのである。半透明なウォーボーイズの肌のような色でできており、これを着るだけで(ウォーボーイズからは)常人を超越した肉体を持っているように見えるのだ。
(出典:http://wwws.warnerbros.co.jp/madmaxfuryroad/)
しかし、そんな筋肉鎧を着ているジョーは、まったく嬉しそうではない。
序盤、鎧をつけるシーンが特に示唆的なのだが、ジョーの病んで老いさらばえた肉体と、筋肉鎧の逞しさの「差」が強く描写されたカメラワークになっている。ジョーの表情も疲労感が強く「またこの鎧を着なきゃならんのか…」とでも言った表情に満ち満ちている。
イモータンジョーは、作中のあらゆるシーンで全く楽しんでいない。
人喰い男爵のように「最高だぜぇ」みたいな顔は作中では一度も覗かせず、発生し続ける問題に対処しようと、常に渋い顔をし続けている。
つまり、イモータンジョーによって、権力とは「責務」であって「愉しみ」ではないのだ。
荒廃後の世界は極めてタフな世界で、そんな中で秩序を保つためにジョーは常に「強さ」を演じなければならない。
不死の英雄ように振る舞わなければならないし、並外れた肉体を持っているように偽らなければならない。デブの乳首ピアス野郎では、荒廃後のタフな世界で秩序を保つことはできないのだ。
父権主義的男性社会においては、男性支配者にも多くの苦しみがある。
「権力」の果実は「責任」という対価を求める。そしてそれは権力者である限り死ぬまで続くのだ。
そしてもちろん、ウォーボーイズたち。
マッドマックの世界では、男は全員「兵士」としての責務を押し付けられ、教育は与えられず、雄々しく死ぬこと、支配者に従うことのみを教えられる。
彼らはみな一様に同じ格好をしており、髪型や服装にも全く個性というものがない。
これは明らかに「同じ格好をして大義のために戦う」男たち、つまり今なお世界中の戦場で命を散らし続けているアメリカの男性兵士たちや、企業社会で神経と命をすり減らしている男たちを描いていると言ってよいだろう。
彼らは「尊厳」だけは与えられているが、健康や命は文字通り致命的に損なわれている。
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