「まいったなあ。これが21世紀か。」~東浩紀氏のツイートから考えるパリテロはヨーロッパを変えるか?~

保守化する先進国

また、リベラルの理想を後退させる要因として、現在の先進国の全体的な保守化の傾向も挙げることが出来ます。

ジョージ・メイソン大学教授のタイラー・コーエン氏は『大格差』という本の最終章で、先進国の保守化傾向に関して「奇妙に平穏な時代」と名付けています。かつて、マルクスは資本主義は格差を拡大し、そのような格差などから生じる様々な社会の矛盾に人々が耐えられなくなったとき、革命が起こるのだと予言しましたが、コーエン氏の予想は違います。

現在の先進国は、中流層がどんどん減少し、格差が拡大することが問題となっていますが、それが即座に社会秩序の崩壊へと導くとは限らないようです。一例を挙げるなら、アメリカでは数十年前から犯罪率は下落し続けていますが、その時期にはアメリカ人の所得の格差は拡大しています。また、アメリカで最後にデモと暴動の嵐が吹き荒れたのは、六〇年代と七〇年代の前半で、その時期には大きな人種暴動があり、主要な大学のキャンパスがデモ隊に占拠されましたが、現在のウォール街の運動などは、それと比較すれば全く大人しいものです。これは、日本の学生運動とシールズデモなどとも非常に似ている現象ではないでしょうか。注目すべきなのは六〇年代はアメリカですら所得格差がまだ比較的小さく所得水準も上昇していたことです。

歴史を見れば中世のように、格差が大きく、階級が固定化されながらも社会秩序がかなり安定していた時代はありました。資本主義の進展がもたらす社会の矛盾の拡大とそれに伴って起こる革命とは必ずしも歴史の必然ではないようです。

保守化する先進国と、テロリズム

アメリカに訪れる最も確実で重要な変化は、高齢化が大幅に進むことだ。高齢化が進行すれば、社会は保守化する。革命や抗議運動は、血気盛んな若者のやることだ。分別くさい(そして人生に疲れた)六〇過ぎの人間があまりすることではない。事実、革命や急激な政変が起こりやすいのは、若い未婚男性が多い国だ。二〇一一年「アラブの春」で相次いで民主化デモが起きた国々の多くは、このパターンに当てはまる。アメリカ社会が進もうとしている道はこれとは違う。(中略)アメリカは、その後もさらに高齢化していく。その結果、アメリカ人はいまより慎重になり、急激な変化に腰が引けるようになる。というより、急激な変化を起こす能力が低下すると言うべきかもしれない。人々の考え方が固定化することに加え、経済と社会と政治に対する高齢者と富裕層の影響力が強まるからだ。(『大格差』タイラー・コーエン 著)

このような状況で、ますます先進国は保守化していくことが予想されると同時にナショナリズムも高まります。一見、貧困層が増加すると、格差是正のリベラルな志向を持つ人物が増えそうな気がしますが、現実には多くの場合、貧困層はナショナリズムに引きつけられ保守化します。さらに、先進国は、たとえ格差が拡大しても自分たちが世界の水準から見れば裕福な生活を享受していることを知っていますから、わざわざそのような秩序や国家を転覆させようとは考えません。

このような先進国の状況と、中東の混乱を考えると、おそらく先進国は自国の国境をより高く設定することで、中東の混乱が引き起こす負の要素をシャットアウトしようとする傾向が高まるでしょう。

つまり、先進国の人々は、中東の大変な混乱を知りながらも、最大の関心は、「如何にこのような混乱から生じる負の影響を自分が受けずに済むだろうか?」ということに集中します。つまり、中東の混乱を知りながら、「それを如何に解決するか?」ではなく、「そのような混乱から如何に自分たちは無縁でいられるか?」に気を注ぎ、中東の混乱を横目で見ながら、多少の不満はあっても比較的平穏な生活を自分たちだけが享受することをもって良しとする風潮が一般的となるでしょう。

もちろん、短期的には難民やテロの影響により先進国、特にヨーロッパ諸国において、様々な混乱が沸き起こるでしょうが、中期的な観点からすると、一定規模の断続的なテロと共存しながらの先進国の奇妙な平穏と中東の終わらない混乱という秩序が形成されるかもしれません。

このような状況では、先進国にとって、混乱に介入したり難民受け入れなどの人道支援を積極的に行えば行うほどに不利益を被るという構図が生まれます。現在は、先進各国の様々な思惑のせめぎ合いから、中東は先進国を含めた複雑に入り組んだ様相をていしているものの、このような構造と先進国の保守化及び内向き志向は中東の混乱を放置させるようなバイアスとなるっていくのではないでしょうか?

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西部邁

高木克俊

高木克俊会社員

投稿者プロフィール

1987年生。神奈川県出身。家業である流通会社で会社員をしながら、ブログ「超個人的美学2~このブログは「超個人的美学と題するブログ」ではありません」を運営し、政治・経済について、積極的な発信を行っている。

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コメント

    • 根無し
    • 2015年 12月 16日

    中東の混乱に対してリベラル的「外向き」志向で居続けた結果が
    今ではないのですか。
    それによって混乱の色合いはどれほど薄まったのでしょうか。
    むしろその程度は強まり、範囲まで拡大しているのが現状ではありませんか。
    ここから舵を切るのはもはや物の道理とさえ言えましょう。
    「手を差し伸べる」といえば聞こえはいいですが
    できもしないことに手を突っ込むより「放置」する方がよっぽどよいと思われます。

    今回のカツトシさんの記事は、
    グローバリゼーションとそれに伴う改革を
    長きに渡って継続したが事は悪くなる一方、であっても
    それに逆行する意見でも言おうものなら
    「保守的・内向き・排他的」などと
    いまだに叶わぬ夢を虚空に見ながらさえずっている連中に重なって見えてしまいます。

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