もう一つの見えない戦争ー間接侵略とはなにかー
- 2015/3/17
- 政治, 歴史
- 22 comments
前章ではインテリジェンス、すなわち情報収集とその活用方法について取り上げました。
本章ではそこから更に踏み込んで、自国の政治目的(国益)を達成するために他国に譲歩してもらう、または問答無用で強要させる方法について解説をしたいと思います。
自己の意思を他者に共用する手段
自分の意図を通すには主に以下の方法があります。
「外交」、「戦争・紛争」、「間接侵略」
外交とは交渉権限をもつ政府の当局者が同じく外国の政府の当局者と行なう交渉(取り引き)を指します。
ここでいう交渉権限とは、自国内の法益に抵触しうる問題について、取引・譲歩する権限を含むことを指します。つまり、他国からある条件を引き出すためには自国も何らかの条件で譲歩をしなくては交渉になりませんので、外交の責任者にはこの譲歩をする権限が認められるという事です。
戦争とは「主権国家間」での紛争であり、「外交関係の断絶」があり、「中立法規の機能」(他国が中立の有無を選ぶ)の3条件を満たした時にのみ成立する国際法上の状態を指します。
そして、戦争は講和条約により武力紛争に係る権利義務関係を精算することにより平和状態を回復します。
なお、戦争というと暴力の行使そのものを目的だと勘違いする人がいますが、プロイセンの軍人カール・フォン・クラウゼヴィッツの言葉を借りれば「戦争とは、敵をしてわれらの意思に屈服せしめるための暴力行為のことである。」(清水多吉 訳『戦争論 上』中公文庫、2001年)と説明しています。
つまり、われらの意思(= 自国の政治目的)を相手国に飲ませるために国際法に則って直接的に暴力を用いることを戦争と言うのであって、暴力の行使はあくまで手段でしかありません。
つまり政治目的を達成できなければ戦闘で勝利しても、それは敗戦なのです。
また、余談ですが戦争と侵略の区別をつけないと「太平洋戦争は日本による侵略戦争だ。」という間違いを犯してしまうことになります。
侵略とは英語でAggression といい、その定義は第一義的に「unprovoked attack」つまり「挑発を受けずに他国に対して武力行使をすること」なのです。(出典:佐藤和男『憲法九条・侵略戦争・東京裁判』原書房、1985年)
支那事変から始まる大東亜戦争においては、通州事件を始め居留民への犯罪行為を中華民国が取り締まらない事や米国による対日経済制裁などが挑発に当たるため、日本が武力侵攻をしたことは間違いありませんが、侵略というのは意味が全く異なるのです。
紛争とは戦争以外の武力行使のことであり、戦前は「事変」と呼んでいました。戦争という法的状態ではないので、国際法上は平和時の武力紛争と解釈されます。例えば国家間の紛争の場合、ノモンハン事件のように日本とソ連は外交の断絶はありませんでした。
通常、戦争と紛争を区別せずに国家による暴力の行使を表現する場合は「武力紛争」と言います。
また、「対テロ戦争」などという言葉がありますが、これも明らかな誤用です。犯罪者は主権国家でない以上、正しくは紛争なのです。
以上のことを踏まえると、外交は自国の要求を他国に認めさせるためにこちらも譲歩が必要なので、なんだか損をした気分になるかもしれません。
しかし、そのようなことは決してありません。他の手段に比べて外交こそが最善手と言えます。
先に述べたように戦争でも外交でもその目的は政治目的の達成にあります。であるならば、手段はリスクや犠牲が少ないものが最上だと言えます。
(他の代替手段があるにも関わらず)武力紛争に訴えかけた場合、まず必ず勝つとは限りません。ロシアが負けた日露戦争、ヴェトナム戦争やイラク戦争において戦闘に勝利しながらもアメリカは政治目的を達成できずに敗戦したなど様々なケースがあります。
また、戦争にヒト、モノ、カネを投資することは多くの場合は、国家経済に悪影響を与えます。よって、孫子の兵法の言うところの「戦わずして勝つ」をまずは目指すべきなのです。
余談ですが、戦争や外交において勝ち過ぎは下策といえます。何故なら勝ち過ぎることによって余計な恨みを買ってしまい、将来に復讐戦を引き起こしかねないからです。
ですから、日清戦争において日本軍は清国軍に対して連勝を続け北京を占領できそうな勢いでしたが、伊藤博文首相は主戦論者の山縣有朋陸軍元帥を本国に召還し、戦闘を中止させて講和へと持ち込みました。
何故なら明治維新以来、最大の仮想敵国であるロシア帝国が将来南下をしてくる際に、清国がロシアと結ばれては日本に勝ち目が無くなるからです。
もしも、日本軍が北京を占領するなどして余計な恨みを買った場合、日露が武力紛争に発展した際に清国が中立を保ってくれなくなる可能性があります。その為にも伊藤は北京侵攻の直前で幕引きを図ったのでした。
(その後、日露戦争まで清国政府や満洲の馬賊に対してロシアの味方にならないようにする為の工作もあるのですが、あまりにも煩雑になるので割愛します。)
同じことは外交にも言えます。一方的に自国に都合の良い条件を飲ませると相手国の恨みを買ってしまい、結局は敵を作ることになるので外交目標を達成できなくなってしまいます。
ここまで取り上げた外交、戦争、紛争、これらは自国の意思を他国に公開して行われるものです。
しかし、自国の意思や動きを隠して他国に自国の目的を強要する手段があります。それが間接侵略なのです。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。