昭和の京都の風情が映しだされる名映画「古都」

こんにちは。牧之瀬雄亮(まきのせゆうすけ)です。思想や政治・経済のことについては他の方々が雄弁に語ってくださっているので私は文化面に的を絞って、映画や漫画、芸術などの比較的軽薄な記事を皆さんにお届けしようかと思っています。箸休めのような気分でどうぞ気楽に、チャハーと足など崩していい加減な気持ちでお読みください。

まず記念すべき第一回目は、日本映画を紹介します。日本の映画と聞いて皆さんどんな映画を思い浮かべるでしょう。黒澤明や周防正行、岩井俊二、北野武。錚々たる名監督の映画がありますが、私が紹介するのはあまり観ている人がいないと勝手に僕が感じている映画を取り上げていきます。TSUTAYAやGEOに置いてあるものをなるべく選びますのでお暇なときや、何か観たいけど迷うときなどの参考にしていただければ幸いです。

それでは早速ご紹介します。どうぞ(バババーーーン)!!!

古都』1963年 松竹
原作:川端康成 監督:中村登(これを観るまで知りませんでしたが日本映画史上屈指の名監督です)
主演(二役):岩下志麻 音楽:武満徹(!!!!!!)

言わずと知れた文豪 川端康成の名作『古都』を映画化したものです。細かい作品情報はウィキペディアなど見ていただけるといいと思います。

この映画の舞台は京都の古い街です。恐らくそう昔でない上映当時の昭和の京都の風情が映っていると思われます。始めにくわーっと面白さを感じるのは、タイトルバックの町家の青い瓦だけが画面を埋める映像です。碁盤の目に並ぶ家々の斜め上から写し、通りや外壁の一切映らない、日の光を含んで染み出すように鈍く返す瓦が、お行儀よく画面を埋め尽くしている画面に、白い筆描きの「古都」というタイトルが、ポン、ポンと二度場所を変えて出てくるところで、もう私はクラクラ来てしまいます。これだけでも観る価値があると断言します!!(タイトルの出し方ってすごくセンスが問われると思いませんか?私は予告その他であまり期待していなくても、序盤タイトルが出るまででほとんどいい映画かどうか判断できると思っています。まあハズレや逆も多々ありますが。)

それに続いて冒頭スタッフや配役の紹介の後ろに映る風景の写し方です。京都はご存じの通り江戸時代以前の面影を意識的に守っている土地柄です。カメラはそれを文字通り真正面から映していきます。家々の戸に誂えられたべんがら格子、雪避けの細くした竹が整列しているところ、これを武満徹のアウフヘーベン的和洋激突&渾然音楽を聴きながら観ていると、なんだか古来のものである筈の日本独自の建築は、未来の芸術がその影にあるような気分になってきます。まあここまでで八割方元が取れたとお考えいただいて結構ですね。(大抵のTSUTAYA、GEOでは100円ですから80円か!といわれると困りますが。)

話の筋を書くのはどうも無粋であると思いますので、観る気が無くならない(本当にいい映画は話の筋を知ったところで映像の価値が微動だにしないものです。)ことを加えて書きますと、主人公の父親役の宮口精二さんは、いい背筋の持ち主です。背筋は人間の美的覚悟を他人にみせる部分だと私は常々考えていて、ふとしたとき私自身も猫背になっていることが多いのですが、更け顔の若ハゲである私もどうにか美しくありたい()と願い、できることをせねばと背筋を伸ばすわけですが、一朝一夕に伸ばしたくらいでは、常に美しく保たれた背筋には敵いません。日々鍛練ですね。また宮口さんは、黒澤明の代表作『七人の侍』の脇構えの凄腕の役で既に皆さんご覧になっておられるかもしれません。志村喬が街で果たし合いしているところを観てスカウトするあの侍です。あの作品でも宮口さんが画面に出るとそこだけ真空状態になるような印象がありましたが、今作では図案も描く呉服屋の主人として登場し、宮口さんだけフィルムの色が濃いような印象を受けます。彼に注目してご覧になるのもまた一興でしょう。

最後にこの作品には、現代の日本人が忘れてしまっている運命の受け入れ方や、言葉が持つ意味をきちんと知っているが故の時所位(英語で言えばT.P.O)に応じた言葉の丁寧な使い方、仕事への向き合い方なども見受けられます。この作品に描かれるような歴史書に名前の載らない人々の日々の生活における感情や判断こそが、歴史をどうにか繋いできたのです。

イノベーションだとか費用対効果などとバカなことでせせこましくなった現代の我々の暮らしと百年と経たないこの情景を見比べて、「こ、これを残したかったのにーーー!」と歯軋りすること請け合いの、すんばらしい内容となっておりますのでご興味ある方はどうぞご覧ください。

素晴らしすぎて延滞しても私は一切責任は持ちません。この作品や私の文章が読んでくださったあなたの京都に限らずあなたご自身の故郷を再発見する、あなたの日常に価値を見いだすきっかけとなれば幸いです。

西部邁

牧之瀬 雄亮

牧之瀬 雄亮

投稿者プロフィール

聴衆が必ずしも積極的には聴かないことを前提とした音楽を探求する即興音楽家。東京を中心として関東圏や故郷鹿児島の山中で主に活動。まともな人間になろうと努力の日々。このサイトでは主に映画、文学、芸術等の記事を書いています。
宇都宮大学 国語教育科中退(8年在籍) Myspace
演奏依頼なさる奇特な方、あなためちゃくちゃセンスいいですよ!ツイッターまで。

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

    • 真由美
    • 2014年 2月 03日

    こんにちは。とても楽しく読ませてもらいました。また訪問します。ありがとうございました。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 2015-3-2

    メディアとわれわれの主体性

    SPECIAL TRAILERS 佐藤健志氏の新刊『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は…

おすすめ記事

  1.  アメリカの覇権後退とともに、国際社会はいま多極化し、互いが互いを牽制し、あるいはにらみ合うやくざの…
  2. ※この記事は月刊WiLL 2015年6月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ 女性が…
  3. はじめましての方も多いかもしれません。私、神田錦之介と申します。 このたび、ASREADに…
  4.  お正月早々みなさまをお騒がせしてまことに申し訳ありません。しかし昨年12月28日、日韓外相間で交わ…
  5. 酒鬼薔薇世代
    過日、浅草浅間神社会議室に於いてASREAD執筆者の30代前半の方を集め、座談会の席を設けました。今…
WordPressテーマ「CORE (tcd027)」

WordPressテーマ「INNOVATE HACK (tcd025)」

LogoMarche

ButtonMarche

イケてるシゴト!?

TCDテーマ一覧

ページ上部へ戻る