「中台協定」反対の学生らが議場占拠 台湾 「産業切り捨てにつながる」
台湾の立法院(国会に相当)で18日夜、中台間のサービス分野の市場開放を目指す「サービス貿易協定」の批准に反対する民間団体の学生たち数百人が警備の警察官を押しのけて庁舎内に乱入し、徹夜で議場を占拠した。台湾メディアによると、一般民衆による議場の占拠は史上初めて。学生らは協定の撤回などを求めて占拠を続けている。
同協定は昨年6月に上海で締結。電子商取引や医療、旅行業など、中国が80、台湾が64分野を相互に開放するとの取り決めで、台湾の野党は「台湾の弱小産業切り捨てにつながる」などとして反発してきた。
(msn産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/world/news/140319/chn14031912360001-n1.htm)
台湾では、中国との貿易協定をめぐって大変な反対運動が起こっているようです。日本では、自由貿易論者の多くが、経済連携協定は、経済分野における関係性を深めることで協定を結んだ両国間の関係を改善すると主張していますが、現実には米韓FTAの締結時の混乱等に見られるように、経済連携協定は必ずしも両国間の関係を改善しないばかりか、場合によっては国内の政治情勢等に大変な混乱を引き起こす可能性すらあることが、この1件からも理解できます。
またTPPに賛成する自由貿易論者の多くは、TPPに参加することで、非効率分野の淘汰、既得権の打破、ゾンビ企業を一掃する等の表現を用いて、生産性の低い分野の産業を切り捨てるような政策を是としていますが、今回の台湾の立法院占拠事件ではまさにその「弱小産業の切り捨て」そのものに抗議する行為なのです。
目先の効率化VS長期的価値観に基づいた安定
おそらくは、台湾でもほとんど同様の議論が行われていたのではないでしょうか(奇しくも、台湾はなんと中野剛志さんがTPP反対の議論を展開した著書である『TPP亡国論』が翻訳された国でもあります)。つまり、経済学者や改革派の政治家、官僚を中心とした「非効率分野を淘汰すべきだ!!」という意見と、反対に「安易に弱小産業の切り捨てを行うべきではない」とする意見の対立です。
私個人としては、この議論においては、後者の「安易に弱小産業の切り捨てを行うべきではない」という意見に分があると考えています(この議論においては過去に書きました記事(『弱者切り捨ての経済政策は本当に合理的なのか』http://asread.info/archives/172)を参照いただければ幸いです)。たとえ、どれほど高名な経済学者や立派な政治家が、「非効率分野を淘汰することが国家経済全体にとってどれだけ効率性を改善するか」などということを論理的に説明したとしても実際に淘汰され職を失う当人たちからしたら絶対に納得いかないでしょう。もちろん、それぞれの国家の経済的状況や経済システムのあり方に大きく関係しますが、少なくとも現在のような世界中で経済が混乱している状況にあっては、失業することは場合によっては自殺や、家族を持つものにとっては一家離散といった状況を招きかねない危機的状況なのです。
「非効率分野を淘汰すべき」と述べる学者や評論家は数多くいますが、その中で、淘汰された非効率分野に従事していた労働者はどうすべきか?という問題についてしっかりと論じている学者はあまり多くないように感じます。池田信夫などは、「非効率分野を淘汰した結果として発生した失業者には失業手当や生活保護で保証を与えるべきだ」といった主張をしていますが、そもそも非効率分野を淘汰することの目的が経済の効率化であることを了承したとして、一度、非効率な分野を淘汰した後に、わざわざ社会保障に莫大なお金を掛けることで、もう一度国家経済全体の効率を落とすことはあまりにも非効率的でバカバカしい選択ではないでしょうか?
ここで、もう一度考えるべきことは、まず国家は企業のように、効率性の低い分野や人材を切り捨てることが出来ないということです。企業であれば、退職金を出して人間を解雇すればそこまでですが、国家はそうはいきません。日本のような先進国は一定の範囲内においてどこまでも国民の面倒をみてやる必要があり、非効率な人材を淘汰することは出来ないのです。さらに、現在の日本のようなデフレ状況においては、失業者の大量発生は、社会保障費を増大させ、需要を大幅に縮小させデフレの悪化、経済の縮小等の様々な悪影響を伴います。
1
2コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。