このように考えると、やはり非効率分野の淘汰を暗黙の前提とする現在の経済連携協定が二国間の関係を必ずしも改善させず、むしろ関係悪化の要因となる可能性が高いといえます。つまり、現在の新自由主義的な自由貿易論に基づいた経済連携協定は、それまで様々な規制や保護によって、一定程度の住み分け、つまり需要の分かち合いの状況を保っていた状況から、それらのバランスの確保に貢献していた規制や保護を取り払うことで、特定の産業分野においてより効率的な方の国家が非効率な方の国家の需要を奪い取ることによって、相手国の産業を壊滅的な打撃を与えるという結果になりやすいのです。現在の世界経済や国際貿易の状況を形容して、しばしば経済戦争などという言葉が用いられますが、果たして、戦争を開始した国家が戦争前よりも仲良くなる、それどころか、その戦争をしたからこそ仲良くなるなどということが果たして有りうるのでしょうか？

このような観点から眺めるなら、現在の日本国内のＴＰＰ反対運動や、台湾の学生の貿易協定の反対運動も、既得権により利権の確保や、排他的なナショナリズムの高揚といった現在日本国内においてインターネット上の言論の盛り上がりに対する大手マスメディアが持つような平板な観点とは一層深まった観点から眺めることが可能になるのではないかと思います。

台中サービス貿易協定、その内容とは

最後に、この台中サービス貿易協定の具体的な問題点についていくつか触れておくと、この協定では金融、広告、印刷、レンタカー、通信、宅配、娯楽施設、スポーツ施設、映画、韓国、旅行、内装工事、老人ホーム、卸売、小売、運輸、美容室、クリーニング、オンラインゲーム、葬儀等、非常に幅広い「サービス分野」について、「台湾が中国に市場を開放する」という内容となっています。

一方で、台湾からの対中投資に関しては「福建省のみ開放」であったり、「中国側が主導権を握る形で開放」だったりします。

つまり、台湾での中国サービス業開業には台湾の法律が適用され、そのため（比較的）参入し放題である一方、中国での台湾サービス業開業には（未だに統制経済である）中国の法律が適用され、中国との合弁会社でなければ設立できないという非対称性を持つ、不平等条約なのです。

中でも特に問題視されているのは通信の分野です。

　特に、危険視されているのが「通信」で、一般のインターネット通信も「台湾側は」完全に中国に対し市場開放をしなければなりません。（対する中国側は福建省において、台湾のネット販売業者が拠点を設けることを認めるだけです。しかも、出資５５％以下という制限付き）通信を中国共産党側に「開放」するとなると、これはもはや、
「国家の安全保障に関する機密情報も、中国共産党にダダ漏れ」
という事態を招きかねないわけで、台湾の学生や市民たちが激怒して当然です。
（ブログ『新世紀のビッグブラザーへ』http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11804124738.html　より）

つまり、今回のサービス貿易協定に関しては単に経済的な乗っ取りのみならず、実際に政治的に台湾が中国に飲み込まれてしまうのではないかという理論的に確実性のある予見に基づいた、強い危機感を学生たちが抱いたために、このような大変な事態に至ったということがいえるようです。