漫画思想【05】人間の強さと弱さ ―『幽遊白書』―

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 私には、少年時代に大きな影響を受けた漫画があります。それは、冨樫義博先生の名作『幽☆遊☆白書』です。1990年~1994年まで『週刊少年ジャンプ(集英社)』で連載されていました。この作品は私の精神に刻まれた糧であり、刻まれた傷痕の一つです。
 今回はこの作品を基に、人間の強さと弱さについて論じてみます。

「暗黒武術会編(戸愚呂兄弟編)」

 作中の内容は大まかに分けられますが、まずはその中の「暗黒武術会編(戸愚呂兄弟編)」から人間の強さと弱さについて考えていきます。
 暗黒武術会とは、裏社会の富豪や実力者達が最強メンバーを集め、バトルを繰り広げる格闘技戦です。この大会には“ゲスト”として闇の世界に深くかかわり、裏社会の人間にとって邪魔となる人間が強制的にエントリーされます。拒否は死を意味することから、生き残るためには参加して勝つしかないのです。
 主人公である浦飯幽助は、ゲストとして暗黒武術会に参加します。幽助の師匠である幻海も、大会に参加することになります。暗黒武術会のラスボスは、戸愚呂・弟(以降、単に戸愚呂と表記)です。この三名の関係から、人間の強さについて考察していきます。

強さのための試練

 大会の途中、幻海は幽助に奥義伝授の試練を与えます。試練の前に、幻海は幽助に次のように語っています。

幻海「老いか・・・。年をとれば技は練れる。かけひきにも長ける。――だが、圧倒的な力に対して対応しきれなくなる日は必ずくる。あたしはそれでいいと思っている。流れのまま、生き、死ぬ。次の世代に望みをたくせればな。」

 そして、幻海は、強くなるために自分を殺せと幽助に言います。自分を殺さないと、この試練はのり越えられないと。幽助に、殺す覚悟が出来たら来いと言い放ちます。幽助は、雨の中、立ちつくして考えます。幽助は考え尽くした後、“できない”という回答を幻海に告げます。強くなりたいけれど、それはできないのだと。
 この回答に対し、幻海は合格を出します。自分が強くなるために、師匠を殺そうとする奴に伝承などしないと。ただし、悩みもせずにできないという毒気のない奴も嫌いだと付け足して。
 幻海は幽助へ奥義を伝授し、自身の力のほとんどを譲り渡します。幽助に力を渡した後、幻海は戸愚呂と戦い、殺されます。死に際に、幻海は幽助に言葉を残します。人は皆、時間と闘わなければならないのだと。しかし、戸愚呂はその闘いから逃げたのだと。お前は間違えるなと。お前は一人ではないのだと。

強さを求めた過去

 幻海と戸愚呂は、かつて共に武道を極めんとする仲間でした。二人は、仲間時代に次のような会話を交わしています。

戸愚呂「オレもお前も今が強さの最盛期だろうな。時が止まればいいと最近よく思う。オレは怖いんだ。オレ達より強いヤツが現われることが怖いんじゃない。そんな奴が現われたとき自分の肉体がおとろえていたらと思うと怖いのだ。口惜しいのだ。人間とは不便なものだな。」
幻海「あんたが年をとれば、あたしも年をとる。それでいいじゃないか。」

 幻海と戸愚呂は、50年前に開催された前回の暗黒武術会の“ゲスト”でした。武術会の三ヶ月前に、戸愚呂の弟子のすべてが、当時の優勝候補ナンバーワンの妖怪に殺されています。戸愚呂へ“ゲスト”で出場することを告げるついでに、その妖怪は弟子達を次々と殺して喰ったのです。その時、戸愚呂は、完璧にやられて立つことすらできない状態でした。
 それまでの戸愚呂は、自分が一番強いという自信がありました。しかし、戸愚呂はそのとき全てを失ったのです。それから三ヶ月間、戸愚呂は完全に消息を絶ちます。
 戸愚呂が、幻海ら他のゲストの前に姿を現したとき、心の中には鬼が棲んでいました。戸愚呂は大会の決勝で、仇の妖怪を殺します。そして、優勝した戸愚呂の望みが妖怪に転じることでした。
 妖怪に転じた戸愚呂は、50年前の若い姿のまま、老いた幻海と立ち会い殺したのです。

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西部邁

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