思想遊戯(8)- パンドラ考(Ⅲ) 峰琢磨の視点
- 2016/7/19
- 小説, 思想
- feature5, 思想遊戯
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パンドーラーは神々が象った最初の女である。
アポロドーロス『ギリシャ神話』より
第一項
佳山智樹とは、同じ学科だったこともあり、大学に入ってすぐに仲良くなった。何か、俺とはタイプが違うけど、その違いがうまいことマッチしたというか・・・。
とりあえず大学生らしく、学科の歓迎会後に夜を明かして語り合ったりもした。講義なども、互いに協力してうまいことやっていこうって感じだ。
智樹は講義もうまいことこなしていたが、そういったこととは別に、話していると機転が利いているというか、発想が柔軟と言うか、あいつの話していることを聞いているのは楽しい。
俺は高校一年のころは割りとバイトを頑張っていて、そういった方面の知識や経験ではあいつより上だったりして、そこがあいつの気に入ったところだったんだと思う。まあ、バイトは一年限定だったわけだが・・・。それでも、おのおのの今までの人生での蓄積が違っていて、互いに興味を持てたということなんだろう。
まだ出会ったばかりだけど、そんなにベタベタするでもなく、講義であった後に一緒に遊んだりして、適度に居心地の良い間柄になれたように思う。
智樹の気まぐれに付き合わされることもあったけど、俺はそれも楽しかった。俺にはよく分からない実験に付き合わされることもあった。
生体工学の教授の研究室に乗り込んだこともあった。講義中に教授が、質問とかあれば研究室まで来てよいと言っていたので、それを間に受けて行ってみたわけだ。その教授は喜んで迎えてくれて、3人で1時間半くらいは話しただろうか。といっても、俺はほとんど横で聞いているだけで、佳山がいろいろと教授に質問を浴びせかけていたわけだが。
佳山は教授に質問し、その回答についても意見を言い、さらなる問題点についても質問するなど議論は白熱した。もちろん、専門の教授からしたら、たいしたレベルの内容ではなかったのかもしれない。それでも、入学間もない大学一年が、教授と議論を行うというのに、俺はかなり感動したりしていたわけだ。
議論が終わって帰る途中で、俺は佳山にどうしてそんなに言葉が出てくるのか聞いてみた。佳山は、普段から年上の人とも話すようにしていればできるようになると言った。そして、慣れれば琢磨もできるよと簡単に言ってのけた。俺は、そうかなと答えておいたけど、そんなに簡単な話でもないだろう。智樹はやっぱり、どこかすごいやつなんだと思う。
第二項
大学生活といえば、やっぱり女のことにも触れておかないといけないだろう。
俺には、高校時代から付き合っている彼女がいる。俺と彼女は別々の大学へ行くことにした。できれば同じ大学に通いたかったが、偏差値にけっこうな差があったから、それはしょうがない。俺が彼女に合わせると言ったら、怒られた。良い彼女だと思う。
彼女は、それほど離れていない、電車で20分くらいのところの大学に通っている。適当な距離があって付き合いも順調だ。同じ大学なら、四六時中会っていられるんだろうが、別々の大学なら会うのも間隔があいて、それが丁度良いのかもしれない。でも、そのうち同棲するかもしれないけど(笑)。
智樹はあんまり女に興味がなさそうなイメージがあったのだけど、何やら面白い展開になりそうだ。どうやら智樹は、噴水のところで読書をしている美女とお近づきになろうとしているらしい。その美女は、わりと有名人らしい。俺も見かけたことがあるけど、確かに美人だし、噴水での読書は絵になっている。先輩たちから聞いた情報によると、かなりの人数が玉砕したらしい。その女性については、いろいろな噂があってどれが本当だかよく分からないが、面白そうな出来事であることは間違いない。
俺は智樹の恋愛の行方を、傍観しながら楽しもうと思っていた。思っていたんだけど、まさかそれに巻き込まれることになるとは、思ってもいなかった…。
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