人工知能の発達で緊縮財政政策が「破綻」する
- 2016/5/27
- 社会, 経済
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※この記事は「チャンネルAJER」様より記事を提供いただいています。
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安倍総理は欧州歴訪を行い国際協調で財政出動を行い落ち込みつつある世界経済を救おうと呼びかけているようだ。長年積極財政の必要性を訴えてきた我々としては、非常に歓迎すべきことであり、安倍首相がそのような呼びかけをするのであれば、もちろん来年の消費税増税は中止し、スケールの大きな財政出動を行うものと期待している。
ところで新聞各紙で報じられたのだが、経済産業省は『新産業構造ビジョン〜第4時産業革命をリードする日本の戦略〜』という興味深いレポートを4月27日に出している。ここでは(1)現状放置の場合と(2)変革があった場合の2つのシナリオでの試算を行っている。この試算は内閣府の試算に対応しており、内閣府では(1)はベースラインケースと呼んでいて、2020年度のGDPは547兆円になり、(2)は経済再生ケースと呼んでいて、2020年度のGDPは592兆円になるとしている。
政府に雇われて試算を行っている内閣府にとっては、立場上政府目標である実質成長率2%、名目成長率3%が実現した場合のシナリオを示さざるを得ないのであり、これが(2)
のケースで、2020年度頃GDP600兆円を実現するという安倍首相の目標はこの試算がベースとなっている。しかしながら、内閣府や経産省の人達と話しても、誰もこんなにうまくいくとは考えていないようで、もっと現実に即したシナリオが必要になる。これが(1)のベースラインケース(経産省では現状放置シナリオと呼んだ)だ。
では、(1)(2)の差はどこからくるのか。もちろんどれだけ需要が伸びてくるかで決まる。それは金融政策でも構造改革でもなく、財政政策の差だ。その意味で(1)は緊縮財政(現状維持)であり(2)は積極財政である。その差が雇用のという面でどのように現れてくるかを詳細な試算で示したという意味でこのレポートは興味深い。筆者は「労働はロボットに、人間は貴族に」というキャッチで、これからの社会は変革していかねばならないと主張している。経産省の試算はこの主張を裏付ける。試算は2015年度と2030年度の比較を行っている。
従業者数でいうと、現状を放置した(1)の場合は735万人減少する。AIに職を奪われた人が失業者になり、安い賃金でも就職しようとするからデフレが悪化する。一方(2)の積極財政で需要を喚起し続けた場合は従業者数の減少は161万人に抑えられる。人口は減るのだから従業者数が少しばかり減少するのは構わない。それに急いで就職しなくても大学や大学院に進学する人が増え、しっかり政府が奨学金で支えるならそれもよい。
このレポートでは、どの分野でどれだけの従業者数の変化があったかを詳細に分析している。最も大きく増えるのは「サービス(低代替確率)」だ。このことは「労働はロボットに、人間は貴族に」を主張した筆者の拙書にも詳しく書いた。作家、タレント、小説家、俳優、料理人、デザイナー、音楽家、カメラマン、芸術家、陶芸家、園芸家、棋士、落語家、プロスポーツなどが増える。テーマパークも増え、旅行を楽しむ機会も増加し、娯楽産業が発展する。
このレポートが警鐘を鳴らすのは、現状の緊縮政策では、AIが職を奪い、大量の失業者が発生し、悲惨なデフレが続いてしまうということだ。安倍首相にも是非このレポートをしっかり読んで欲しいと願う。
小野盛司
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