橋下大阪市長出直し選挙に見る議会制民主主義の劣化

一見、合理的に見えますが、しかし、直接民主制的な政治のシステムは、アレクシ・ド・トクヴィルが主張するように、容易に多数者の専制、つまり少数派の弾圧を引き起こします。特に、現代の民意はマスコミの論調に大きく左右されるため(今回の都知事選で、マスコミに取り上げられた主要4候補が、マスコミにほとんど取り上げられなかった5位の家入一真氏と10倍以上の得票数の開きがあったことを考えれば未だマスコミの世論に与える影響は絶大であると言って良いでしょう)、本来、一定程度の安定性、一貫性、あるいは長期的展望が必要とされる一国の政治運営について、移り変わりやすい世論(たとえば、自民党の小泉内閣を支持していたかと思えば、数年後には民主党に8割の支持が集まり、その3年後には再び自民党の安倍内閣に8割の支持率が集まるような世論)に振舞わされやすいシステムへの大幅な変更を行えば、それはほぼ確実に政治の混乱や、それに伴う社会の混乱を引き起こすでしょう。

さらに、「そもそも、政治の専門家ではない一般の選挙民に様々な高度な政治的判断が可能であるのか?」という問題も存在します。たとえば、原発問題一つとってみても、放射能の悪影響は専門家によっても大幅な意見の相違が見られますし、原発の必要性を判断するためには、中長期では、今後のエネルギー技術がどのように変化していくのか、短期的に言っても中東情勢や中東情勢に対し、アメリカがどのように介入するのか、あるいはしないのかといったエネルギーを取り巻く世界的状況がどのように変化していくのかという問題を読み解いてく、非常に高度な観察眼も重要になります。しかし、これらの要素全てを、毎日フルタイムで仕事をしている個々の社会人に、きちんと調べてもらい独自の判断を下すようにさせるというのは難しいのではないでしょうか?
原発をはじめとするエネルギー政策の問題ひとつとってもみてもそうなのですから、仮に、福祉や社会保障、食糧問題、農業問題、外交安全保障、教育問題・・・とありとあらゆる専門的な問題に対し、一般の選挙民に判断を委ねるというのはあまりにもバカバカしい考えであると思えてこないでしょうか?そのため、これらの問題について、一般国民に代わって考えて議論するプロの政治家つまり国会議員が存在し、選挙民に選ばれた政治の専門家である国会議員が議論を尽くして政策を決定するのが議会制民主主義であるのです。

さて、橋下大阪市長が行おうとしている大阪都構想ですが、この構想では、大阪周辺の行政区割りを改変させ、大阪市を消滅させ、大阪都を設立します。このような大幅な改変が及ぼす影響は多岐に渡ります。そのような多岐に渡って発生する影響の一つ一つを詳細に検討し、その是非を判断するのは、おそらく普段毎日、自分の仕事を行っている社会人にはほとんど不可能ではないでしょうか?

橋本市長の寂しい動機、そして幼い人間像

では、一体、何故橋下市長は、このような無理なことを選挙民に強要してまで、出直し選挙を行おうとしているのでしょう?

 大阪市の橋下徹市長が仕掛けた出直し市長選(3月9日告示、23日投開票)は無風選挙となる見通しが強まってきた。

 自民、民主、公明各党に続き、共産党が14日、独自候補を立てない方針を明らかにしたためだ。各党とも橋下氏の「独り相撲」を印象づける作戦だが、選択肢を奪われる有権者からは憤りの声も上がる。

 「橋下氏にとっては、選挙戦でテレビに取り上げられることがメリットだろうが、(各党が)静かにすれば、それもなくなる」

 候補擁立を見送った共産市議団の山中智子幹事長は14日の記者会見でこう語った。当初、独自候補擁立に傾いた共産が異例の「不戦敗」を決めたのは、苦渋の判断だったとはいえ、「対抗馬を立てて橋下氏の圧勝を許せば、『民意を得た』と勢いづかせてしまう」(党関係者)との警戒感もあったからという。

 自民市議団幹部は「各党とも擁立見送りで、今回の選挙の異常さ、大義のなさを有権者に発信しやすくなった」と歓迎。民主系市議団幹部も「橋下氏に好き放題言わせないためには、独り相撲をさせておくのが効果的だ」と強調した。
(出典:橋下氏「独り相撲」印象づけへ…市長選、無風か : 読売新聞

 「橋下氏にとっては、選挙戦でテレビに取り上げられることがメリットだろうが、(各党が)静かにすれば、それもなくなる」
この指摘は非常に重要であるように私には思えます。適菜さんが、橋下がやっていることは政治ではなくただの詐欺だと述べているように、橋下氏にとっては、大阪都構想など大した問題ではないのです。つまり、参院選でも、都知事選でも全く影が薄くなってしまった維新の会及び、橋下本人の存在感のなさをなんとかするための単なる売名行為と言って良いでしょう。

都構想を行う上で、再び大阪府知事に戻ることが必要であるなら、自民、民主、公明、共産党が候補者を出さないのは維新の会と橋下にとって良いことであるはずです。まあ、そもそも、大阪府知事であることが必要ならば、市長になる必要がそもそもなかったということなのですが。

しかし、橋下市長と同じ維新の会の松井一郎大阪府知事は、各党の姿勢を批判しています。つまり、ここから分かることはただ一つ、今回の出直し選は本来の政治活動とは何の関係も無い、ただただ、橋下市長が、

「私は選挙民から支持をされている!!民意はわれに有り!!」

と選挙民や国民にアピールするため、さらに言えば自己効力感を得るためのパフォーマンスに過ぎないのです。

政治の劣化ここに極まれりといった感じですが、これが今回の出直し選の全てなのです。

私は、橋下市長のこのような売名行為に付き合わされるのはうんざりだとして、候補者を立てなかった各党の姿勢を支持しますし、それと同時に、このような茶番に付き合わされる大阪市民、及び大阪府民には心から同情します。まあ、もっともこのような下らない茶番を行うような人物を圧倒的な支持で迎え入れたのは大阪の選挙民ではあるのですが。

固定ページ:
1

2

西部邁

高木克俊

高木克俊会社員

投稿者プロフィール

1987年生。神奈川県出身。家業である流通会社で会社員をしながら、ブログ「超個人的美学2~このブログは「超個人的美学と題するブログ」ではありません」を運営し、政治・経済について、積極的な発信を行っている。

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 2014-10-15

    何のための言論か

     言論とは、話したり書いたりして思想や意見を公表して論じることです。公表して論じるというその性質上、…

おすすめ記事

  1. SPECIAL TRAILERS 佐藤健志氏の新刊『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は…
  2. ※この記事は月刊WiLL 2015年4月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ 「発信…
  3.  アメリカの覇権後退とともに、国際社会はいま多極化し、互いが互いを牽制し、あるいはにらみ合うやくざの…
  4. SPECIAL TRAILERS 佐藤健志氏の新刊『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は…
  5. 多様性(ダイバーシティ)というのが、大学教育を語る上で重要なキーワードになりつつあります。 「…
WordPressテーマ「AMORE (tcd028)」

WordPressテーマ「INNOVATE HACK (tcd025)」

LogoMarche

ButtonMarche

TCDテーマ一覧

イケてるシゴト!?

ページ上部へ戻る