いろは歌の美しさ
- 2014/2/13
- 思想, 文化
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「いろは歌」と「五十音図」
いろは歌とは、47文字のひらがなを全部1回ずつ使った七五調の歌のことです。手習いの手本として広く親しまれ、近代にいたるまで用いられてきました。
【いろはうた】
いろはにほへと (色は匂へど)
ちりぬるを (散りぬるを)
わかよたれそ (我が世誰ぞ)
つねならむ (常ならむ)
うゐのおくやま (有為の奥山)
けふこえて (今日越えて)
あさきゆめみし (浅き夢見じ)
ゑひもせす (酔ひもせず)
「有為」とはサンスクリット語の翻訳で、さまざまな因縁によって生じた現象のことです。「有為の奥山」は、因縁によって生じたこの世のきずなを断ち切るのが容易でないことの例えだと考えられています。
現在、いろは歌を見る機会は少ないと思われます。日本語の仮名文字(平仮名、片仮名)の勉強には、いわゆる「あいうえお、かきくけこ、…」の五十音図が使われているからです。音韻の体系的な理解には、いろは歌よりも五十音図の方がすぐれています。
【五十音図】
あ い う え お
か き く け こ
さ し す せ そ
た ち つ て と
な に ぬ ね の
は ひ ふ へ ほ
ま み む め も
や ゆ よ
ら り る れ ろ
わ ゐ ゑ を
ん
私の最も古い記憶は、実家の壁に貼ってあった子供の勉強用の五十音図です。子供用だけあって、「り」のところにはリンゴが描かれているといったように、ひらがな毎に単語例が示されていました。自分の最古の記憶が五十音図というのは、我ながら感慨深いものがあります。
その後、私がはじめていろは歌を知ったのは、祖父母の家で小学校低学年のときでした。その家には、いろは歌のカレンダーが壁に掛かっていました。私は、昔は「あいうえお」ではなく、この「いろはにほへと」が使われていることを教えてもらいました。
そのとき私が考えたことは、いろは歌は必要のないものだということでした。
世の中では、古いものが新しいものに入れ代わります。しかし、古いものにもそれなりの価値があることは分かっていました。例えば、古い掃除機は、新しい掃除機に比べて吸引力が劣っていたとしても立派に使えます。そのため、新しい掃除機が壊れたときの予備として取っておくことも検討に値します。
しかし、五十音図に取って代わられたいろは歌は、当時の私にはまったく無用のものだと思われたのです。いろは歌がなくなったとしても、五十音図を覚えていれば何の問題もないからです。
新旧の交代に際し、古いものを残しておく価値がある場合と、残しておく価値がない場合があります。残しておく価値がない代表例として、当時の私はいろは歌ほど適切なものはないと考えたのでした。
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