ドラッカー守破離

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 ピーター・ファーディナンド・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker、1909~2005)は、オーストリア・ウィーン生まれのユダヤ系オーストリア人経営学者です。ご自身は「社会生態学者」を名乗っていました。「現代経営学」あるいは「マネジメント」の発明者としても有名です。
 ドラッカーは日本で「経営の神様」と呼ばれることもあり、その影響はかなりのものです。そのため、彼の思想について考えておくことは有益だと思われます。

ドラッカーにおける守破離

 さて、日本の茶道などには守破離という考え方があります。師弟関係における修行の三段階を示すもので、まずは師の教えや型を「守」る段階からはじまります。次いで、さまざまな教えを研究し既存の型を「破」る段階があります。最後に、師の教えや型から「離」れ、新しいものを生み出す段階があります。
 この守破離は、学問の分野にも応用が可能です。日本の経営分野では、ドラッカーの影響が強いですから、ドラッカーにおける守破離を考えておくことが必要かもしれません。

ドラッカーにおける「守」:経営論

 経営について知識を得ようとするとき、ドラッカーの著作は勉強になります。いくつか参考になる見解を紹介してみましょう。
 例えば、『経営者の条件』(名著集1)では良質な組織論が語られています。

組織は公平さと非属人的な公正さを必要とする。さもなくば、優れた者は去り、あるいは意欲を失う。しかも組織は多様性を必要とする。さもなくば、変革の能力を欠き、正しい意思決定を行ううえで必要となる異なる見解の能力を失うことになる。

 組織論とくれば、次いで具体的な企業論について知りたくなります。『企業とは何か』(名著集11)を参照しましょう。

企業が代表的組織である産業社会においては、企業たるものは、第一に事業体としての機能を果たしつつ、第二に社会の信条と約束の実現に貢献し、第三に社会の安定と存続に寄与しなければならない。

 『現代の経営』(名著集2)では、トップマネジメントについて次のような言及があります。

一度も間違いをしたことのない者、それも大きな間違いをしたことのない者をトップマネジメントの仕事につかせてはならない。間違いをしたことのない者は凡庸である。そのうえ、いかにして間違いを発見し、いかにしてそれを早く直すかを知らない。

 一見すると当たり前の指摘ですが、やはり重要なことでしょう。なぜなら、世の中は複雑なものだからです。『創造する経営者』(名著集6)からは、リスクと不確実性について含蓄のある意見が示されています。

リスクと不確実性をなくすことはできない。人間にはそのようなことはできない。できるのは、適切なリスクを探し、時にはつくり出し、不確実性を利用することだけである。

 これらの見解は、深い洞察に支えられています。良書から知識を得ることは、やはり重要なことですね。

ドラッカーにおける「守」:人知論

 人間の知識を考える上で、おちいりやすい落とし穴があります。それは、進歩主義という考え方です。人類の歴史をながめたとき、物質的な豊かさは増してきたように思えます。そのため、安易に人間は進歩して来たのだと考えて、傲慢に考えてしまうことが往々にしてあるのです。
 それを戒めるためにも、ドラッカーの次の二つの見解は合わせて参照しておくべきでしょう。まずは、『現代の経営』(名著集3)の意見から。

人類そのものが、変化することを示すものは何もない。知的水準において、あるいは情緒的成熟度において、成長したことを示すものはない。今日にいたるも『聖書』は人間性の最高の基準であり、アイスキュロスとシェイクスピアは心理学と社会学の最高の教科書であり、ソクラテスとトマス・アクイナスは知恵の最高峰である。

 『聖書』が人間性の最高の基準かどうかは異論のあるところですが、過去の偉人へ規範を求める姿勢は学ぶべきでしょう。次いで、『創造する経営者』(名著集6)から。

しかし、体系的な知識は、今日の医師に対し一〇〇年前の最も有能な医師以上の能力を与え、今日の優れた医師に対し昨日の医学の天才が想像もできなかった能力を与える。いかなる体系も、人間の腕そのものを伸ばすことはできない。しかし、体系は先人の力を借りて常人を助ける。常人に対し成果をあげる能力を与える。有能な人間に卓越性を与える。

 これらは、それぞれに根拠があります。どちらかの意見だけに立脚するなら、それほど良くないことが起こりそうです。この二つの見解を両方とも認識しておくことが、謙虚さと機会への積極性を併せ持つために必要なのだと思われます。

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西部邁

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