戦う国家公務員・国公労連 『ハケン女性をオルグせよ!』

霞ヶ関型階級社会に不満

 厚労省で働いていた三十代の女性組合員A子さんは、次のように語る。

「人間らしく過ごすためには、八時間の労働が一番いいの。八時間働いて八時間睡眠で、あとの八時間は自分のために使う。レジャーであっても、趣味であってもいい。誰もがそうした人間らしい生活を送れるような世の中であるべき。
 政治家はそうした国をつくってそれをサポートするのが、霞ヶ関で働くひとびと。それなのに、霞ヶ関職員の働き方や環境は全く違う。一部のエリートキャリア官僚を中心とした階級社会ができあがっていて、非常勤にはキャリアアップの機会なんて開かれていない。 最近、任期付きで雇用される職員も増えてきたけど、基本は弁護士などエリート士業の人ばかり。彼らはたしかによく働くけど、ハッキリ言って私たちが理想とする社会(八時間労働のこと)の実現には迷惑な話なの」

 と、こちらに一切話す隙を与えない勢いでまくしたてた。いまは、厚労省の関係団体に派遣されているという。薄化粧にストレートの黒髪。物静かなタイプで、「組合活動」を積極的に行っているようには感じられない。

「デモや集会に参加してくれる女子学生は、早稲田などの一流私大卒ばかり。地方の国立大学卒の方もいる」

「安倍政権は退陣すべき」

 A子さんは地元の私立大学を出たあと、中堅のメーカーにとりあえず就職。転機は結婚だった。結婚後間もなく、夫が東京に転勤になった。妊娠が重なったこともあり、会社をやめて夫について「上京」し、専業主婦となった。

「夫は地方採用のノンキャリアだったので、東京への転勤は出世コースでした。正直、私も転勤が決まった時は浮かれていた。でも実際に東京で暮らし始めたら、思い描いていた生活スタイルとのギャップに日に日に耐えられなくなっていったんです」

 都心から離れた年季の入った官舎で何より嫌だったのが、同じ官舎の専業主婦の奥さんたちとの付き合いだった。古参の奥さんが幅を利かせていて、その夫が比較的役職が高かったことから女王様のように振る舞っていた。 夫は毎日、早朝から深夜まで働き、生まれたばかりの子供の面倒など見てもくれない。「(子供の夜泣きで)うるさくて眠れない」 「同僚に遅れをとるから」と言って、休日出勤や「会社」に泊まる日も増えていった。

 結局、二年ほどで離婚。夫から月々の養育費は送られてくるが、微々たるもの。東京で、女手一つで小さな子供を育てながら仕事を得るのは大変だ。就職活動はことごとく失敗し、以前に働いていた会社より遙かに小さな会社からも「不採用」の通知が届いた時は、涙が止まらなかった。

 派遣登録したところ、PCなどのスキルが比較的高かったことから、霞ヶ関に派遣されることになったという。三年で一度終了になり、その後、一般企業に派遣されたが、再び霞ヶ関関係の職場に戻る。
 組合の支部によっては毎週、「ノミニケーション」の場を設けているし、子持ちのA子さんにとっては、子連れ参加OKの休日旅行やレジャーなども楽しみの一つだ。

「組合の人たちは、以前の官舎の奥さんたちよりよほど親切。私たちの生活を脅かす安倍政権は、もちろん退陣すべきだと思う。職場では言えないこうした本音は、組合の仲間にぶつけています」

組合員争奪戦を展開

 前述した「女性協」通信にも、五月に愛知で開かれる交流集会を紹介した号がある。オリジナルキャラクターの「みやちゃん」が着物姿で登場。グルメ、ショッピングだけでなく、タラソテラピー(海水療法)や温泉などの複合施設を紹介し、働く女子が好みそうな身体に優しくヘルシーな食材も取り上げている。 これだけ見れば、私もつい「レジャー」として足を運びたくなる。ただ、これも昔ながらのオルグ活動が現代風に変わっただけ。食事などをともにしながら職場や人間関係の相談に乗って相手の心をみ、原発や戦争法案の危険性などに対する不安を巧みにつきながら共産党の主張を展開。

 派遣される女性たちは頭がいいだけに呑み込みが早く、また政策の中枢に関与できないことには不満を持っていたりするため、感情的にも同調が早い。気がつけば、「共産党シンパ」になっているというわけだ。

 国公労連の場合、組合員の巣窟と呼ばれる人事院や裁判所、厚労省、国交省などの職員が中心になると聞く。こうした組合活動に詳しい内閣府の官僚は、次のように見ている。

「勤務する省庁は問わずにオルグしたいはずですが、国公以外にある他の霞ヶ関の労組も同じように省庁ごとで基盤を持ち、派遣や非常勤職員をターゲットにしている。争奪戦は今後、ますます激しくなるでしょう」

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西部邁

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