震災となると、「政治的な有象無象」が目の色変えて飛びついてくる件

なお、阪神の時も、そして東北の時もいろいろあった模様

 災害時には情報が錯綜し、どうしてもデマが飛び交いやすい状況が現出しますが、そんな時には機を見るに敏な人たちが(ご当人はよかれと思ってのことでしょうが)好ましからぬ言説を垂れ流す傾向にあります。早速の反原発界隈の活発な発言など、ご覧になった方も多いかと思います。
 そんな一例として、(幸い今回はまだ見ていませんが)「被災地でレイプが多発しているぞ」といったデマも定番であるようです。
 1995年の阪神大震災直後、多くのメディアでそうしたニュースが報道されました。しかし兵庫県警が当年に認知した強姦事件の件数は、前年とほとんど同じだったのです。
 当時はフェミニズム団体が実に熱心にレイプ被害について訴えていましたが、その言にはほとんど内実がなかったことを、与那原恵さんが物語の海、揺れる島で暴いています。
「震災後のごたごたで強姦事件が放置されてしまったのでは」といった推理も成り立ちますが、警察の言い分は「強姦事件の話が多く聞かれたため調べてみたが、結局は噂だけだった」というものであり、殊更に警察が怠けていた(他の事件で強姦事件にまで手が回らなかった)とも言えなさそうです。
 同様に、関西でよく知られた女性団体においても公的機関においても、レイプに関する相談は軒並みゼロ。「兵庫県立女性センターでは、震災後後半で一万五五三件の相談を受けた」が「レイプにかかわる相談は一件あった」だけ。
 フェミニズム団体「ウィメンズネットこうべ」代表の正井礼子さんは取材に応じ、「四件のレイプの話を聞いていた」と語っていました。しかし、与那原さんが丹念に聞き取ってみると、うち三件が「又聞き」の類であり、最後の一件は、無線を趣味にする正井さんの弟さんが「○○避難所のボランティアはかわいい女の子がいるよ」というカー無線マニア同士のやりとりを偶然傍受した、というものでした。上の「手を振ったら慰安婦」を連想させる話ですが、残念なことにフェミニストにはこうした方が大変に多いのです。
 フェミニストの中には「この年の被災地では中絶が大変増えた」との主張をなさる方もいたのですが、厚労省のデータを見る限り、当年の神戸の人工妊娠中絶件数はむしろ前年よりも大幅に減っていました。
 結局、フェミニストは怪しいソースを元に風評被害をばらまいただけと言えますが、正井さんは与那原さんの告発以降も

しかしその後、女性ライターによって「被災地レイプ伝説の作られ方」*4という記事が書かれ、レイプはなかったことにされ、相談を受けたHさんや私個人も実名入りでひどいバッシングを受けた。*5

 などと被害者ぶるばかりで、反省をなさっているご様子がありません。
 そして彼女は2011年の東日本大震災の時にも、『東京新聞』などの取材に応じ、上の主張を繰り返していました。当時、ぼくは『東京新聞』と、正井さんなどフェミニストに「与那原さんの本を見るに、レイプ多発はデマではないか」とのメールを差し上げたのですが、まともな答えはいただけませんでした。
 ちなみに、東日本代震災時の東北では性犯罪が増えたのでしょうか?
 ちょっと気になり、警察庁犯罪統計資料を見てみました。

 強姦の認知件数

20年 21年 22年 23年 24年
岩手 8 8 15 7 10
宮城 24 28 27 15 23
福島 16 15 18 13 17

 強制猥褻の認知件数

20年 21年 22年 23年 24年
岩手 40 39 44 42 43
宮城 182 143 152 138 164
福島 80 95 123 82 73

 簡単に表を作ってみましたが、基本的には震災のあった23年には事件は減っています。ゼロということはいずれにせよありませんが、「多発」はしていないということです。

*4 与那原さんの記事の『諸君!』発表時のタイトル。正確には「被災地神戸『レイプ多発』伝説の作られ方」。
*5 http://www.npo.co.jp/hanshin/10book/10-036.html。ちなみに彼女らの那須原さんへの反論はこうした「レイプはなかったことにされた」といった明らかに事実と異なること、「とにもかくにも批判によって私たちは屈辱を感じたのだ」といった情緒的なものがほとんどでした。

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西部邁

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