TPPは中国包囲網にあらず!!~包囲されたのは日本だった?!~

唯一の戦果である自動車も日本に有利にはなりません

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最後に、ほとんど唯一の戦果と言えそうな自動車に関しても、よくその内容を見てみれば日本にとって全く有利にならないということについて解説します。

自動車関税に関しての重要事項は3つ、一つは、2.5%の関税を25年かけて撤廃、二つ目に、米国カナダの自動車部品は即時撤廃、三つ目はこれが重要なのですが、TPP参加国から、55%の部品調達すれば、自動車関税(完成品)の撤廃とあります。

まず、一つ目は実質的な敗北といってよいでしょう。25年かけて撤廃ということは逆に25年間は関税が維持されることを意味します。また、現在先進国同士では、基本的に工業品の関税はほとんど撤廃、もしくは非常に低い関税が課せられており、そもそも、これだけの農作物や食料品の関税を犠牲にしながら、「交渉の結果、自動車の(わずか)2.5%の関税を撤廃させられたぞ!!」と叫ぶのは、ほとんど自嘲気味な皮肉としか言いようがありません。また、重要なのは、何の関税を撤廃させられたかではなく、逆に何の関税が維持されたのかであり、現在の報道を確認する限りアメリカがトラック(大型SUV等を含む)にかけている25%の関税は維持されたようです。つまり、日本は重要5品目と呼ばれる非常に重要な関税品目をことごとく引き下げられたにも関わらず、相手側の本丸であるトラック関税には一切手を付けられずにノコノコと帰ってきたわけです。おまけに、攻めの農業などと言っているくせに、日本以外の国の農業関税で一体何を引き下げられたのかは未だに不明。「攻めの農業への転換!!」「外に打って出る!!」というのであれば、当然、相手国の食料品の関税を引き下げられたのでしょうが、未だ報道ではそのような情報は一切出ておりません。さらに、2013年の交渉段階では、アメリカ側が日本の軽自動車税の優遇措置の廃止を要望しており、2015年には軽自動車税が上がります。仮に、これが、アメリカからの要望を受け入れた結果であるとするなら、唯一成果が上がるかと思われた自動車分野でも逆にアメリカの要望を押し込まれたカタチになります(また、現在のところ交渉の全容は明らかになっていないので、2015年の軽自動車税の値上げ以外にも、軽自動車の優遇措置等を撤廃するような条項がねじ込まれている可能性はあり得ます)。

二つ目の、自動車部品の関税撤廃も、全く意味はありません。そもそも、日本の自動車作業はすでに輸出戦略から海外生産、現地生産の戦略にシフトしており、アメリカやカナダは現地生産のための部品を低価格で調達するために関税を引き下げたに過ぎません。こうすることで、現地生産での部品価格を安くで調達できるようになるわけで、結果として国内で生産した日本車を海外に輸出するなどの戦略なども視野に入れることが可能となり、むしろ、カナダやアメリカにとっても利点の大きい戦略的な関税引き下げとでも呼べるものです。もちろん、それでも、「アメリカやカナダ国内の中小の自動車産業の下請けには不利になるのでは?」という懸念もあるでしょう。そこで重要になるのが、最後のTPP参加国から、55%以上の部品を調達すれば、自動車関税(完成品)の撤廃という条件です。

これを行うことで、日本は優先的にTPP圏内から部品調達を行って自動車を生産することになります。そうなれば、アメリカにとって本来あまり関係のなかった、日本からカナダやオーストラリアへの自動車の輸出に関しても優先的にアメリカで生産された部品を使用してくれるかもしれなくなります。

つまり、これがアメリカの行った交渉の本質なのです。まず、第一に本丸(トラック、大型SUVの関税)は徹底的に守り無傷で通し、アメリカにとってほとんど不利にならない部分を「ここは譲歩してやったぞ!!」と大げさにアピールし、最後に、ほとんど不利にならないような譲歩(25年かけて2.5%の自動車関税を段階的に撤廃)でもしっかりとそのデメリットを補償するための条件(TPP圏内から部品を調達しやすい条件を組み込むことで国内の中小企業に有利な条件を引き出す)をしっかりと協定の内容にねじ込んでいく。大筋合意がなされた後に、大慌てでTPPの対策会議を開いている日本側とは対照的にアメリカ側は、国内の中小企業が打撃を受けないよう、おおよそ万全の態勢を期しています。

まあ、要は日本の完敗、どころか、文字通り見事な惨敗中の惨敗だったワケですね。今後も、続々と日本にとって不利になるようなニュースが出てくるでしょうが、注意深く観察して、できる限り情報を伝えていきたいと思います。

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西部邁

高木克俊

高木克俊会社員

投稿者プロフィール

1987年生。神奈川県出身。家業である流通会社で会社員をしながら、ブログ「超個人的美学2~このブログは「超個人的美学と題するブログ」ではありません」を運営し、政治・経済について、積極的な発信を行っている。

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