社会的紐帯を支える社会保障制度ー社会保障制度の在り方を考えるー
- 2014/8/19
- 思想, 社会
- 社会保障
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ひとつの社会保障制度が救うのは、その“対象者本人”だけではない
最近、世代間格差の是正という議論が流行っています。是正されるべき世代間格差が存在していること自体は否定しませんが、高齢者が給付を受けている金額をもっぱら高齢者のみの便益として捉えるのも間違いです。例えば、介護保険の給付を直接的に受けているのは高齢者ですが、それによって利用者の家族も介護負担軽減の恩恵を受けることができています。年金制度にも、私的扶養の負担を社会化し、代替している側面があります。単純にこれらの給付を削減しても、私的扶養に費用が転嫁されるだけです。すなわち、社会保障給付費を削減しても、家族が私的に負担しなければならなくなると、医療・介護の支えを必要とする重度な高齢者が急増する「超高齢社会」においては、それぞれの家族に過重な負担を強いることになります。
安倍首相は、家族の支え合いを「自助」に含め、家族の機能強化によって社会保障給付費、すなわち国民負担の抑制を図るべきだという考えを示しています。私も、家族の役割を軽視してきた戦後の風潮は正されるべきだという点は大いに同意しますが、だからといって、家族の機能強化を社会保障制度の縮小と結びつけるというのは、あまりに短絡的だといわざるをえません。家族で何をどこまで担えるかはそれぞれ異なりますし、国民全体で連帯してこそ可能となる支え合いの機能を個々の家族の責任に押しつけても、むしろ家族が機能不全に陥り、社会に大きな歪みが生じることは火をみるよりも明らかです。
もちろん、社会保障制度を充実しさえすれば、問題が解決するというわけではないのも事実です。
ことほどさように、社会保障制度をめぐる議論には、少子高齢社会の抱える多様な問題が複合的に絡んできます。しばしば公的負担軽減という狙いもあって、社会保障制度を市場原理にさらすような新自由主義的な改革が提案されますが、それでは解決策にはならず、社会問題を大きくすることは、アメリカの惨状が示すとおりです。むしろ、個別的な損得勘定を超えて支え合うことにより、社会的紐帯を強化し、社会に安定性をもたらたす基盤として、社会保障制度の機能を考えていくべきです。決して簡単な答えの出る問題ではありませんが、そうであるからこそ、社会保障制度のあり方が問われている今、表面的で技術的な議論に終始するのではなく、理念的な次元も含めた議論を深めていく必要があるように思います。
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