ポケモンGO狂想曲

朗報:フジテレビ

 「ポケットモンスター」のスマホアプリ版「PokemonGO(ポケモンGO)」が大人気の余り、各所で騒動を起こしています。2016年7月6日にダウンロードを開始してからわずか3日で、Twitterユーザーの一日の平均利用時間を越え、一週間後には米国史上、最も利用者数を誇るモバイルゲームとなったのです。惜しむらくは「日本発」ではないこと。純国産品として生み出せなかった理由は、著作権など大人の事情を脇に置けば、国民性の違いに見つけます。

 ポケモンGOは、スマホの位置情報機能を利用し、実際の街中で「ポケモン(キャラクター)」を発見する「位置ゲー(位置情報ゲーム)」です。実際の街を背景に現れるポケモンに、世界中で大人までもがのめり込み、米国、オーストラリア、ニュージーランドと、ダウンロードが開始された地域毎に「ポケモン中毒」が生まれています。本稿執筆時、日本国内でのダウンロードは始まっていませんが、7月中の開始ではないかと予想されており、日本でも大熱狂が予想されています。

 国内の熱狂は一足早く株式市場に訪れます。ポケモンの生みの親である「任天堂」の株価は一週間で約2倍に跳ね上がり、開発会社に出資していたフジテレビ(フジ・メディアHD)の株価までストップ高をつける場面がありました。週間視聴率ランキングの上位から「サザエさん」すら消え、もはや「低視聴率」ぐらいしか話題にならないフジテレビにとって久々の朗報です。

巡るトラブルの数々

 ポケモンGOの基本プレイは、一般的なスマホゲームと同じく無料ですが、ポケモンを捕まえるのに役立つアイテムは有料で、米国だけで1日に約160万ドル売り上げているという予測があります。スマホゲームの旨味は、ヒットすればするほど文字通り「原価ゼロ」に近づくところ。実際には任天堂の子会社の「株式会社ポケモン」と、Googleから独立した米国「ナイアンティック」社による開発で、まるまる取り分にはなりませんが、1ドル105円換算で365日を掛けると、613億2千万円。任天堂の2016年3月決算の通期営業益が328億円ですから、ポケモンGOだけで、約2年分の営業益を叩き出す計算です。さらにスマホゲームの課金に慣れている日本市場はこれから。株価が急騰するのは当然です。

 人気の過熱ぶりから事件や騒動も起こっています。米国ワイオミング州では、水辺のポケモンを探していたプレーヤーが溺死体を発見したり、ポケモンが現れるリアルの場所に強盗団が待ち伏せしたりといった物騒なものから、深夜にポケモンを探して徘徊していた白人が、二人組の黒人男性に声を掛けられ身構えると、近くにあるポケモンの捕獲場所を教えられ意気投合し盛り上がっていると、深夜に騒いでいたという理由から警官に職務質問され、説明すると警察官らもその場でポケモンGOをダウンロードし、ゲームのやり方を教えろと言われ仲間になったというホッコリする話しも報告されています。

 さらに米ニュース番組「10NewsWTSP」の天気予報のコーナーで、ポケモンGO中毒を自称するキャスターが、出演シーンでもないのに「歩きスマホ」で画面を横切るという珍事も発生。映像は生放送されていました。

国内企業が作れなかった

 ポケモンの熱狂は間もなく開幕する「リオ五輪」にまで波及します。リオの市長がFacebookで「こんにちは、任天堂。リオ五輪まであと23日。みんながここに来ます。あなたも来て」と呼びかけます。犯罪多発にジカ熱で、観光客誘致に頭を抱えているのでしょう。

■ポケモンGO「リオ五輪にも来て!」 市長が熱いラブコール
http://www.afpbb.com/articles/-/3093944

 日本生まれの「ポケモン」の快進撃。痛快ではありますが、忸怩たる思いも隠しきれません。なぜなら、その技術や発想は日本企業が先行していたからです。

 ポケモンGOが属する位置ゲーは、J-phone(Vodafoneを経て現在はSoftBank)の位置情報サービス「ステーション」のコンテンツとして2000年から配信されており、その代名詞とも言われる「コロニーな生活(「コロプラ」の前身)」が世に出たのは2003年です。リアルタイムで風景にポケモンを描き加える技術は「仮想現実(VR:VirtualReality)」や「拡張現実(AR:AugmentedReality)」と呼ばれ、これは国内ベンチャーが「セカイカメラ」として2009年に実現しています。なによりベースとなる「ポケットモンスター」は、ゲームボーイ用ソフト『ポケットモンスター赤・緑』として1996年に発売され、今年で20周年。対して「ポケモンGO」の開発を担当する「ナイアンティック」が、リアルを舞台に敵と味方に分かれた陣取りする位置ゲー「イングレス」を発表したのは2012年。つい最近の話しです。

 端的にいえば「負け惜しみ」ながらも、「日本国内で作れたのに」と歯噛みします。

→ 次ページ「大人がバットマンに喝采する国」を読む

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西部邁

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  1. 2016-2-24

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