わざとイスラム国に負ける米軍、そして中東はイスラエルの思惑通りとなる

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数的優位な有志連合軍が「イスラム国」(ISIS)にイラクの戦略的要衝ラマディを奪われるなど、不可解とも取れる戦況が続く中東情勢。しかし国際情勢解説者の田中宇さんの無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』はこの状況について、決して不可解ではなく、米軍がわざとISISに負けているだけだと断言します。

わざとイスラム国に負ける米軍

5月17日、米軍が指導するイラク政府軍の約1万人の部隊が、イラク中部のスンニ派の都市ラマディで、自分らの10分の1しかいない1000人程度の過激派テロ組織「イスラム国」(ISIS)と戦って敗北、敗走し、ラマディはISISの手に落ちた。米国とイラクにとって、昨年6月のモスル陥落以来の大敗北だ。イラク軍は装甲車大砲など大量の兵器を置いて敗走し、それらの兵器はすべてISISのものになった。ラマディは、首都バグダッドから130kmしか離れていない。東進を続けるISISは、イラクを危機に陥れている。

敗北時、イラク軍には世界最強の米軍がついていた。米軍は制空権を握り、戦闘機でいくらでもISISを空爆できた。しかし、地上で激戦のさなかの空爆は4回しか行われず、それも市街の周辺部を小規模に空爆しただけだった。

イラク政府軍と一緒に地元のスンニ派部族の武装勢力が戦っており、米政府が彼らに軍事支援を約束していたが、実際には何も支援せず、武装勢力は銃弾をブラックマーケットで自腹で買わざるを得ず、十分に戦えなかった。米軍が諜報を担当していたが情報収集に大きな漏れがあり、イラク軍は後方の集落に隠れていたISISの部隊に不意撃ちされ、総崩れになった。「砂嵐なので米軍機が援護空爆できない」という間違った情報が流され、イラク軍が敗走を余儀なくされた。

ラマディの敗北後、カーター国防長官はテレビ番組で「イラク軍は戦意が欠けていた。自分たちよりずっと少数の敵の前から逃亡した」と発言した。米軍自身の諜報的なやる気のなさを棚上げしたこの発言に、イラクのアバディ首相は「(カーターは)間違った情報を与えられている」と逆非難した。イラク政府高官は「すぐ近くの空軍基地(Al-Asad)に米軍機がたくさんいたのに出撃せず、米軍はイラク軍を助けなかった」と言っている。

米軍はISISとの戦いにおいて、どこを空爆したら良いかという情報が欠如している。必死に収集しているが情報がないのではなく、集める気がない感じだ。イラクとシリアで、米軍機は出撃しても4分の3が空爆せず帰還している。今年1-4月で爆撃機が7319回出撃したが、空爆を実行したのは1859回だけだった。どこを空爆したら良いかわからないのだという。

ISISはシリア北部の町ラッカに本拠地があり、米軍はラッカのどこにISISの施設があるか知っていたが、それを空爆せず温存してやっている。ラッカからイラクへの幹線国道を空爆すれば、ISISがシリアからイラクに軍勢や武器を移動できなくなるのに、米軍はそれもやっていない。米軍は、いくらでもISIS空爆できるのにそれをせず、自由に活動させている。昨年6月、米軍とイラク軍は第2の都市モスルをISISに奪われたが、この際、米国がイラクに与えた2300台の装甲車が残置され、ISISの手に渡っている。米国がISISに装甲車をあげて支援した構図になっている。

以前からの私の読者は、米軍がわざとISISを空爆せず、意図的に兵器をISISに与えることを知っても、特に驚かないだろう。イラク軍がISISと戦っている目の前で、米軍のヘリコプターが袋に詰めた武器や食料をISISの陣地に投下して支援していたことについて、以前の記事に書いた。米軍は、ISISを支援するだけでなく、イラク軍のISIS攻略作戦の中身を事前に公開し、攻略を妨害したりもしている。

→ 次ページ「アメリカがここまでISISを「支援」する理由は?」を読む

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西部邁

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