三島由紀夫の遺言と言論人の存在価値

近代化の空虚さ

先日、京都大学教授で安倍政権で内閣参与を勤めている藤井聡さんと、『ナショナリズムの復権』という本を書いた、東日本国際大学准教授の先崎彰容さんの対談がありました。国家やナショナリズムといった事柄について、それぞれの立場から様々な側面から焦点を当てて解説している対談を非常に面白い内容であったので、今回は私なりに解説をしてみようかなと思います。

近代化を受け入れることで、日本人はアイデンティティーを失う

この対談で一つの重要なテーマとなったのが文学評論家の江藤淳が言った「呼吸の乱れ」という概念(あるいは感覚)です。日本は明治の開国以降、外圧つまり外からもたらされる近代化の不可避の流れというものをある種の宿命として引き受けてきました。しかし、このような近代化の不可避の流れを受け入れつつも、その近代化こそが日本の誇りや民族としてのアイデンティティーを失っていっているのだということを認識したとき、つまり、そのような近代化と日本のアイデンティティーという二つの事象の相克、ある種のズレを感じた時に、我々の穏やかの呼吸が乱されるのだと江藤淳は述べたのだといいます。そして、同時に、そのような呼吸の乱れの中からこそ文学というものが生まれるのだと、江藤淳は述べたのだと先崎さんが述べた後に、藤井聡さんは、小岩井農場の例を挙げて、それは国つくりというものも全く同じなのだと述べるのです。

藤井聡 国作りっていうのをやってきた先人達っているわけですけど、彼らも結局どういう感じにやっていったかっていうと、これどこかでお話したかもしれないですけど、例えば日本で最初の土木技術者ってのが井上勝っていう鉄道の技術者なんですよ、彼はイギリスでそれを長州ファイブの一人として勉強してきて帰ってきて、それで東海道本線を作って、それからさらに北陸本線を作る。

ただ、その時に、彼は息がずーっと乱れてたわけですよ。なんで乱れていたのかというといわゆる美田良圃を潰してきたと、それに関して物凄い息の乱れを彼はずーっと心に抱えてて、で、確かに明らかに日本最高のエリートですから、ここで鉄道を引かないと西洋列強にやられると、したがって絶対に近代化が必要だと、しかも、その技術を学んできたのはイギリスの最先端の土木技術を学んできたのは自分だけだ。だから、俺がこれを絶対やらなければいけないと、(そして)作ったことで、これで日本という国が生き残るであろうと可能性が高まったであろうということを、政府のど真ん中でそれをやっている。

だけど、物凄い息の乱れ、つまり反省の原罪を背負った。その時に、彼とちょうど東北線を作ろうとするときに、たまたま岩手のあたりで、その現場を見てる時に、物凄い荒れ野原があって、「これは何なんですか?」って(質問し)「ああ、これは荒れ野原で全然農業とか出来ないぐちゃぐちゃなとこなんですよ」って聞いたときに、息の乱れがずーっとあった彼が何を思ったのかというと、もうここまで美田良圃(びでんりょうほ:美しい田と良い畑)を潰してきた、日本の美しい風景風土を潰してきた僕がやるべきことは、この荒れ野原を農地に変えることだ。と決意するんですよ。

で、その時は決意するだけなんですよ、で、決意して、その後も、そのまま生きてその気持ちを生きながら持ってた時に、ある時、岩崎弥太郎と井上勝と、それから小川某という方、この小川某って方は政府の鉄道局の役人で、岩崎弥太郎は岩崎弥太郎です、あの三菱の、で、その3人で、こう宴席の時にその話をフッとした時に岩崎弥太郎が、「分かった、それは俺が金を出そう」と言って、そこで小川が国としての事業はこうしようって作ったのが小岩井農場なんですよ。

小岩井農場っていうのは、小川の小、岩は岩崎弥太郎の岩、小岩井の井は井なんですよ。で、この3人で作って、北海道の開拓ができるまで、ずーっと最大の農場であり続けたんですよ。ですから、文学が息の乱れから生まれうと今言ったのと全く同じように、国づくりもその息の乱れからやってたんですよ。

「しなやかなナショナリズム」をつくる 〜大衆社会の病理とこれからの共同体論〜 藤井 聡× 先崎 彰容@ジュンク堂池袋本店)

さて、ここで藤井聡さんは国づくりも文学もどちらも近代社会の宿痾を受け入れることから生じるを息の乱れから行われたのだと述べているのですが、この話を聞いて、私が思い浮かべたのは三島由紀夫でした。

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西部邁

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