【吹田市議会議員 山口克也】吹田市の美しい文化や遺産を共有していく取り組み

政治の理想と現実のギャップをどのように埋めるか

私が政治という場に身を置くのは、そこが様々な理想や夢や欲望がぶつかり合って、一つの現実を作り上げていく場所であり、最も困難だが、最もやりがいのある仕事場であると考えているからです。特に日本人は、議論によって共通の理想・枠組みを作り、それを力をあわせて実現・運営する政治を苦手としており、地方政治においては、生の経済的利益が政治の場でぶつかり合う状態が続いています。どのような事態が地方で起こっているのか、私のいる吹田市の状況を簡単に説明し、その状況に対する処方箋を私なりに書かせていただきます。

吹田市で失われた大阪万博・千里ニュータウンの文化遺産

2000年頃、万博から30年を経過したということで、万博閉会時には壊さずに残された、エキスポタワーや万博美術館、万博ホール、エキスポランドなどが次々と取り壊される事態が生じました。私は、万博美術館、万博ホールの保存を目指す活動を行いました。これらの建物は、機能的にはまだまだ使えるものでしたが、万博公園のこの場所に美術館やホールはいらないからという理由で、吹田市議会や大阪府議会における保存を求める意見書の採択にもかかわらず、早々に取り壊されてしまいました。今残っていたら、間違いなく文化財に指定される素晴らしい建物でしたし、あらたな美術館、ホールの需要も発生したと思います。そして最近、文化勲章受章者村野藤吾の作品で千里ニュータウンの記念碑といわれた公的施設が取り壊され、跡地がマンションとなる事態も起こりました。

私が最近取り組んでいるのは、市民が付近の環境を含め大変愛してきた公立病院が、吹田市内ではありますが離れた駅前の開発地に移転する問題で、経済的利益のためにそれまでの街の形を崩すものでした。(後になってその経済的利益もないことが分かったのですが)

地域の中の文化的要素、街づくりの積み重ね、さらには福祉的要素までが、注意していないとあっという間に再開発の中で消えて行くのが、現在の吹田市の状況です。そして問題なのが、街の中にある、美的価値、歴史的価値、先人の思い、人間のつながりの重要性を理解し、守ろうとする、市職員、政治家、市民の数が圧倒的に少ないことです。

短期的処方箋と、長期的処方箋

短期的に吹田市の施策における文化的要素を強化するためには、まず市民に、吹田市の運営に関する当事者意識を持っていただかなくてはなりませんし、さらに市内の文化的素養をもつ方々を多く市の施策に関わっていただくことが必要です。重要な政策決定前にシンポジウムを前置すること、市民大学などで、市民に気軽に市の政策に発言していただける場を設けなくてはならないと思います。

長期的には、小中学校の教育において、子どもたちの街づくり、景観、芸術などに対する感性を育てる取り組みが必要ですし、生涯学習においても芸術・文化教育を行う必要があります。日本人には、芸術を、技術や習い事と捉える人がまだまだ多いのですが、美のコンセプトを共有していくのが世界標準の美術活動です。芸術に対するリテラシーを高めることが、市民の街づくりに対する意識を高めるために必要だと感じています。市民レベルで美のコンセプトを共有していく、という活動の意味が理解されれば、次に市民レベルで街の歴史、さらには自然、環境、世界の認識を共有していく作業が生れるでしょう。

高いレベルで市民の様々な分野における意識の共有ができて初めて、経済的利益を求める集団の力、生の政治力に対抗して、自治体の中で理想を作り上げていけると思うのです。
時間のかかる、エネルギーのいる取り組みですが、しなくてはならないことです。しっかりと取り組んでまいります。

西部邁

山口 克也

山口 克也吹田市議会議員

投稿者プロフィール

昭和38年12月1日大阪生まれ。東京大学法学部卒。
会社員、アメリカ留学(MBA)を経て、1999年吹田市議会議員に初当選。市長選、衆院選の後、2011年の地方統一選挙で再選、2期目。著書「地球温暖化と闘う愛」「アース・チルドレン

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