日本経済の成長&景気循環メカニズム
- 2014/2/2
- 経済
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2点目は、新古典派的な経済観と異なり、「経済は、不均衡を踏み出す要因をそれ自身の中に孕んでいる」ことを示しています(バブル現象はその典型例、という訳です)。
今回のモデルは同様な構造を保持しながら、
「一般的な経済モデルとは異なり、(実質値ではなく)貨幣を尺度とした『名目値』で方程式を組み立てている(家計も企業も名目値に基づいた意思決定を行う、すなわち『貨幣錯覚』に囚われているのが現実の経済の姿であると共に、『金融サイクル』という名目経済上の現象との関連性を視野に入れているため)」
「家計、企業の支出水準を決定するのは、(乗数=加速度モデルのような)GDPすなわち一国全体の所得ではなく、それぞれ自身の所得である(特に企業については、営業余剰すなわち営業利益と、固定資本減耗すなわち減価償却費とを、別々の決定要因として認識する)」
という前提を加えた、以下のような姿をしています(記号の定義も含め、詳しくは冒頭にご紹介した論文をご参照ください)。
(今回のマクロ経済モデル)
ここで、企業の設備投資( It )を説明する変数に「1期前の営業余剰( Pt-1 )」を取り込んでいますが、これは現実の営業余剰と設備投資の間の時差相関分析に基づくもので、これが内生的景気循環を発生させる要因となっています。
営業余剰と設備投資の間のこうしたタイムラグは、設備投資自体が(消費などとは対照的に)意思決定から実行までに相応の時間が必要な行為であること、設備投資水準は事業から将来期待される利益見通しに左右されるが、「利益の期待値」の最も確実な算定根拠は所詮過去の実績でしかないことから生じていると考えられます。
1980年~2009年のGDP統計(93SNA、2000年基準)を用いてモデルに具体的な数値を当てはめた結果、19.23年という、現実の不動産バブルを伴う景気循環(ピークが1970年、1990年、2008年)にも極めて近い、内生的な周期が検出できました。
現実を説明し尽くすモデルとしてはあまりにもシンプルですし、「分析に使用するGDP統計の時系列データには定常性が認められない」といった問題点はあるものの、現実の経済が「GDPの水準が内生的な景気循環メカニズムに影響されつつも、公的支出の規模に応じて決定される」という構造を有していることが、上記の結果につながったと考えられます。
財政支出による乗数効果は4倍以上
今回のモデルから現実の乗数効果を推定すると約4.3倍、すなわち「財政支出を1兆円増加させるとGDPの均衡水準は4.3兆円増加する」という結果になります(実際のGDP増加額は景気循環の影響を受けるため、その近辺の数字になります)。筆者が参加している「日本経済復活の会」で宍戸駿太郎先生から伺った話では、「内閣府モデル以外のまともな」計量経済モデル(今回のものよりも格段に緻密なもの)では、名目乗数は4倍ほどとのことですので、今回の結果は奇しくもそれに近いものになっています。
この結果は言うまでもなく、「1990年代以降乗数効果は低下している。従って1990年代前半の公共事業を中心とした景気対策は効果が乏しかった」という議論と真っ向から対立するものです。
これは、「乗数効果低下論」の多くが、「バブル崩壊後の景気対策の効果を検証する」と称して、内生的景気循環メカニズムを考慮に入れずに(言い換えれば、主流派経済学の非現実的な経済観を前提に)1990年代(公的支出に対するGDPの比率が低下する景気サイクル下降期)を対象に分析をし、結論を導き出していることに起因しています(図2の丸囲み参照)。
見方を変えれば、仮に1990年代前半の景気対策を行わなかったとすると(過去15年のように財政支出総額をほぼ横ばいに抑えていれば)、単純計算で名目GDPが150兆円くらい落ち込んでいた可能性があるということです。従って、そうした事態を防いだという意味では、経済政策として極めて有効なものだったと評価すべきなのです。
【図2:日本のGDP-公的支出比率の推移】
コメント
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2014年 8月 14日トラックバック:【島倉原】景気循環と第二の敗戦 | 三橋貴明の「新」日本経済新聞
いきなりですが、2点質問させていただきます。
①乗数が4倍以上との分析には驚きました。もちろん、内閣府の1倍強というのは論外と考えますが、確か宍戸教授のDEMIOSモデルや政府貨幣論者の丹羽春喜教授などは2.5程度、その他財政出動効果を認める研究室、研究機関でも概ね4までだったと思います。政府支出に関しては、通常それと同額が地方政府により支出されますので、地方政府による公的支出と合わせた乗数としては、半分の2倍以上と考えておけばよろしいのでしょうか。
②「日本経済にとって適切な名目経済成長率は約5%という結果が出てきました。つまり、財政支出も毎年5%くらいずつ拡大するのが適切ということです。」この結論に関しての「適切な」とは何を意味しているのでしょうか、また、大まかな計算過程をご教示いただけないでしょうか。宜しくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
①私自身が「日本経済復活の会」で宍戸先生のお話を伺った記憶では、「2.X倍」というのは実質ベースの話で、名目ベースの乗数は4倍近かったと思います。
ただし、(試したことは無いですが)私の考え方では実質ベースの乗数も名目ベースの乗数とほぼ変わらない、4倍強の数字が出てくるはずです。
両者の結果を分ける主な要因として考えられるのは、
・一般的な計量経済モデルは実質ベースの消費関数や投資関数を組み立ててから別途物価変動の方程式を掛け合わせて「結果としての」名目値のパフォーマンスを算出するのに対し、私のモデルは「むしろ名目値の方が家計や企業の行動に与える影響が大きいのが現実」という全く異なる前提(いわゆる「貨幣錯覚」)で、名目ベースでいきなり消費関数や投資関数を組み立てている。
・恐らく列挙された諸モデルには「内生的景気循環」の前提が入っていないため、「乗数」の数学的な定義が実は異なる。
ということではないかと思います(DEMIOSも含め、他モデルの中身を確認したことが無いので定かではありませんが)。
②約5%(細かく言えば4.8%)の根拠は、設備投資関数から導き出される「資本に対する期待リターン」です。期待リターンの計算式については公開している論文の第5章冒頭及び第A節、算出に必要な数値については同第6章冒頭をご参照ください。
第5章第A節にも記述の通り、この数値を現実が上回ると企業の設備投資行動が過熱し、下回ると停滞する、というメカニズムを想定しています。
そして、「経済全体のフローとストックにある適正バランスが存在する」という前提に立てば、「資本に対する期待リターン≒適正資本成長率≒適正経済成長率」と考えるのが筋が通っています。
もちろん、極めてシンプルな分析に基づく結論ですから、数字が一人歩きしは余談ですが、宍戸先生曰く、「(昨年亡くなった米国の計量経済学者)ローレンス・クラインによると、自然体での日本の生産性伸び率(≒適正な実質成長率)は4%程度」なのだそうです。これにインフレ率1%を加えると「名目経済成長率5%」ということなので、それなりにコンセンサスが得られる水準だろう、ということで、今回敢えてお示しした次第です。
もちろん上述の通り経済観に大きな違いがあるため、単純な援用は意味が無いかもしれませんが、
コメントを書いている途中で誤って投稿ボタンを押してしまったので、回答②の訂正版を載せておきます。
②約5%(細かく言えば4.8%)の根拠は、設備投資関数から導き出される「資本に対する期待リターン」です。期待リターンの計算式については公開している論文の第5章冒頭及び第A節、算出に必要な数値については同第6章冒頭をご参照ください。
第5章第A節にも記述の通り、この数値を現実が上回ると企業の設備投資行動が過熱し、下回ると停滞する、というメカニズムを想定しています。
そして、「経済全体のフローとストックにある適正バランスが存在する」という前提に立てば、「資本に対する期待リターン≒適正資本成長率≒適正経済成長率」と考えるのが筋が通っています。
もちろん、極めてシンプルな分析に基づく結論に過ぎませんから、数字が一人歩きし過ぎることは問題だと思います。
他方で、宍戸先生曰く、「(昨年亡くなった米国の計量経済学者)ローレンス・クラインによると、自然体での日本の生産性伸び率(≒適正な実質成長率)は4%程度」なのだそうです。これにインフレ率1%を加えると「名目経済成長率5%」となりますから、今回の結果も当たらずとも遠からずで、それなりにコンセンサスも得られる水準だろう、ということで、今回敢えてお示しした次第です。
(もちろん、上述の通り経済観に大きな違いがあるため、単純な援用は意味が無いとも言えますが、乗数の定義ほどの乖離は存在しないはずなので、むしろ「違った論理で組み立てても近い結論が出てくる」ことを肯定的に評価して良いケースではないかと思います)
ご丁寧な解説ありがとうございます。第5章、第6章についてもじっくり再読します。また、質問させていただくかもしれませんが、宜しくお願いいたします。
①について1点補足です。
誤解を与えてしまったようですが、ここでいう「財政支出」には、「中央政府」だけではなく「地方政府」および「公的企業」の支出も含んでおり、「公的支出」とイコールです。
従って、ご指摘の「公的支出と合わせた乗数」は2倍以上ではなく、4倍以上となります。
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