日本のアニメ制作をダメにする「ブラックボックス」問題

「絵コンテ」の孤独

とはいえ、「ブラックボックス」が演出(監督)の担当領域の中にあることは想像に難くありませんね。「映像作家」の代表格は紛れもなく演出家であり、彼または彼女の感性が映像作品の品質を全て規定するからです。思い描いたイメージを、いかにして映像に収めるか。それが演出家の直接的な仕事だとすれば、演出の脳内こそ「ブラックボックス」だと言えます。

その一点においてアニメ制作のプロセスに問題があるとすれば、それは「ブラックボックス」を分解し、制作プロセスの中へ均等に組み込む機能が存在しないことにあります。特に制作プロセスのうち演出の担当領域である「絵コンテ」の工程は主に演出ただ1人の双肩にかかっており、何人たりとも介入できない仕組みになっています。

踏み込んで言えば、これは「総監督」または「監督」を頂点とした分業体制で「絵コンテ」担当者を複数抱えているような長編やテレビアニメーション作品の制作現場においても同じことが言えます。なぜなら「絵コンテ」はその場合でも、ひとまず完成品が提出されるまで協議の対象に出来ないからです。各担当者は宿題を抱えた小学生と同様に、「絵コンテ」を描き上げるまでひたすら1人で孤独に執筆をし続けなければなりません。

「絵コンテ(=ストーリーボード)」とは、アニメーション制作における設計図のようなものだとお考え下さい。どのようなカットが、どんなタイミングで、どのキャラクターをフレームに納め、どうセリフを口にし、いかにして動くかを、漫画のコマを並べたような専門の用紙に描いて解説した書類のことを指します。アニメーションにおける制作プロセスの解説は他所のサイト(次号引用します)に頼ることで割愛しますが、アニメーションは演出が「絵コンテ」を事細かに描き切ることによって初めて具体化されることは覚えておきましょう。

クリエイティブの寡占

この「絵コンテ」作業の性質上、アニメーションは実写作品と比べて随分早い段階で骨組みが定まる、とも言えます。撮影と編集とを段階的にこなす実写作品とは異なり、アニメは多くのプロセスが「絵コンテ」という設計図でいっぺんに固まってしまうからです。特に日本製のアニメは、脚本が決定稿になった直後に「絵コンテ」の工程が組まれるので、制作工程の初期段階でクリエイティブ面の意思決定の大部分が一気になされます。

その上「絵コンテ」が一旦固まってしまうと、以後の変更はほぼ不可能になります。その設計図を元にして、アニメーター以下のスタッフが一斉に作業を開始してしまい、途中での方向修正が難しいからです。

このように、クリエイティブ面での方向性を確定するにあたって、アニメの制作現場は究極的な寡占状態を迎えるステップがある、ということがおわかりになるでしょうか。脚本が固まったあと、アニメーションの演出家は実写作品で言うところの「カメラマン」「照明」「美術」「役者」「編集」「特殊効果」その他あらゆるスタッフの役割を1人で請け負い、フレーム内の要素を頭の中で全て計算に入れながら黙々と紙に描き出す作業に没頭することになるのです。

このステップの在り方を良しとするか否かは、それこそ場合によりけりでしょう。天才的な才能を持った演出家なら他人の意見に惑わされず、ある程度まとまった形で独自性ある絵作りを明示することが出来ます。ただし、それには頭の中で思い描いたことを用紙へ的確に描き切る高度な感性と技術力が必須です。

特にキャラクターのパフォーマンスに至ってはセリフの「間」「口調」「速さ」をはじめ、身のこなしや息つぎの方法に至るまでを前もって詳細に計算しておく必要がありますので、大変な想像力が求められます。アニメの演出家には、登場するキャラクターの数だけの多様な人格を頭の中で的確に再生できる能力が必要だということです。

もうお分かりでしょうか。アニメ演出の1ステップ=「絵コンテ」のクリエイティブ面における寡占状態は、有能な人材に無限大の裁量を与える反面、作品にとって適任でなかったり、あるいは未成熟だったりする人材には過度の期待と苦難を強いるシステムだと言えるのです。

→ 次ページ「日本独自のステップがもたらす深刻な弊害とは?」を読む

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西部邁

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