一なる神は神秘を授ける。
神秘を感じたものが人間となった。
人間は一なる神に祈る。
一なる神は、最初にして最後の人間の前に降り立つ。
一なる神は、言われた。
「光あれ。」
すると光があった。
光は人間に遮られ、闇を生んだ。
光は闇と分かれた。
闇は、不気味に蠢いた。
やがて闇は、曲がりくねった形をとった。
光は、人間の形となった。
光は愛の神と名乗り、闇は蛇と名乗った。
愛の神は、蛇と共に、「生命」と「知恵」を唱えた。
そうすると、そこに生命の樹と知恵の樹が生え出た。
愛の神は、そこを世界の中心と呼んだ。
蛇は、そこを異なる中心と呼んだ。
愛の神は、人間に言った。
「知恵の樹の果実を取って食べてはならない。
なぜなら、それを食べると死んでしまうからだ。」
人間は、愛の神に従って知恵の樹の果実を食べなかった。
蛇は、人間に言った。
「知恵の樹の果実を取って食べても、死ぬことはないでしょう。
それを食べると、愛の神や蛇のように善悪を知る者となるでしょう。」
人間は、愛の神と蛇を交互に見た。
愛の神と蛇は、黙って人間を見つめ返した。
人間は、知恵の樹に手を伸ばし、果実を取って食べた。
人間は、善悪を知る者となった。
愛の神は問われた。
「あなたは食べるなと命じておいた樹から、なぜ取って食べたのか。」
人間は答えた。
「食べると死ぬはずの果実を食べても、私は生きています。」
愛の神は言われた。
「あなたはあなたのために呪われ、あなたは一生、善悪によって苦しむ。」
愛の神は、人間を従わせた。
蛇は、人間に逆らうことを教えた。
一なる神は、人間に従うことと逆らうことを示した。
蛇は言った。
「生命の樹の果実を食べてはいけません。」
愛の神は言った。
「生命の樹の果実も食べなさい。」
人間は、再び愛の神と蛇を交互に見た。
愛の神と蛇は、黙って人間を見つめ返した。
人間は、生命の樹に手を伸ばし、その手を止めた。
人間は、生命の樹の果実を食べずに、愛の神と蛇から歩み去った。
それゆえ、最初の人間は、最後の人間である。
愛の神は言われた。
「見よ、
人間は蛇のようになり、善悪を知るものとなった。
人間は蛇のようにならず、永遠に生きるものにならなかった。」
蛇は言った。
「見てください、
人間は愛の神のようになり、善悪を知るものとなりました。
人間は愛の神のようにならず、永遠を願うものとなりました。」
それゆえ、これは真に原罪と呼ばれる。
一なる神が、
神秘を感じる人間に対し、
善悪を授けたその原因たる罪だからである。
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