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2015年6月5日のNHK時論公論での関口博之解説委員の解説は間違いだらけだった。内容は次のサイトで閲覧可能である。
時論公論 「『財政健全化計画』 今月末策定へ」
歳出削減・増税を行えば、景気は更に悪化し、GDPの拡大もない
最初に基礎的財政収支の説明があったが、ここから間違いが始まった。彼の説明によると基礎的財政収支が黒字化すれば借金が雪だるま式に増えていくことはないのだそうだ。しかし、これは明かに間違いであり、基礎的財政収支が黒字化しても、国債費、つまり国債の利払い等もあるのだから借金が雪だるま式に増えていくことはある。こんな初歩的なミスをNHKの解説員は行うとは驚かされる。NHKは直ちに訂正を行うべきだ。
関口解説委員によれば、政府の経済見通しはいつも甘すぎるという批判があるとのことだ。これは私が何回も行っている批判であり、「名目GDPいつも甘い見通し?」というタイトルで、名目GDPのグラフと内閣府の見通しを比較したグラフが示された。このグラフも私が何回も示しているグラフだ。
確かに政府の甘い見通しを批判するのは正しいのだが、関口氏の解説の文脈をみると、「だからもっと歳出削減・増税を行わないと財政健全化はできない」と主張しているようである。これは全くの間違いだ。なぜなら、歳出削減・増税を行えば、景気は更に悪化し、デフレ脱却は遅れ、税収は伸びず、GDPの拡大もないので、政府の借金のGDP比は増加を続ける。これは財政悪化だ。
そもそも、基礎的財政収支の推移をみると改善したのはバブル景気の頃と、戦後最長の景気回復と言われ2007年10月まで続いた景気回復期の頃だけだ。後者は海外の景気回復に助けられたものだが、これはデフレ脱却の絶好のチャンスだったのにも拘わらず緊縮財政を続けたために、デフレを長引かせてしまった。結論から言えば、景気がよくなれば基礎的財政収支は改善し、景気が悪くなれば悪化する。目先の基礎的財政収支改善のために緊縮財政を続けているといつまでも景気は改善せず、基礎的財政収支も改善しない。
経済落ち込みの原因は厳しい緊縮財政
政府の経済見通しは甘すぎるのは間違いない。甘いのはGDPだけでない。基礎的財政収支の見通しも同様に甘いのだから、その見通しを信用してはならない。リーマンショックの前は、政府は2011年度に基礎的財政収支の黒字化を目標にしていたし、内閣府もそれにそった見通しを出していた。
2006年発表の予測では2011年度にはピッタリ収支がゼロになると予測し、当時の小泉首相が2006年度までに基礎的財政収支を黒字化すると宣言し、痛みに耐えよと言いながら「最大限の財政削減」を行い始めた。それがデフレ脱却の絶好のチャンスを失わせ、世界トップレベルにあった一人当たりの名目GDPの国際順位を18位にまで落ち込ませるきっかけになった。
しかも、目標達成には無残に失敗し、2011年の基礎的財政収支は何とGDP比で-6.9%という最悪の結果になってしまった。確かにリーマンショックがあり、予測がはずれたという逃げ口上はあるだろう。しかし、サブプライムローン問題では日本の銀行の関与は少なかったにも拘わらず、国際的にも最悪の経済落ち込みになったのも、厳しい緊縮財政を続けていたのが原因である。
残念ながら、過去の反省を行わず、再び同じ間違いを犯そうとしている。報道によれば、政府が月内に取りまとめる2015年度の経済財政運営の基本指針「骨太の方針」において基礎的財政収支(PB)の赤字を18年度に対国内総生産(GDP)比で1%程度に縮小することを盛り込むとのこと。日本経済はこれでよいのかを、我々は真剣に考える時期に来ているのではないか。
小野盛司
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