30歳からの学問のススメ ―もう一度教科書を読みなおしてみよう

吾三十にして学に志す

「吾十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従えども、矩を踰えず」
という言葉を残したのは、中国の思想家・孔子でした。

 私は昨年末に30歳の誕生日を迎えましたが、まだまだ「立つ」というのには程遠い。孔子には笑われてしまいそうです。
 
 でも、いまや人生80年時代。孔子の生きた紀元前の中国と比べれば、ライフスパンは劇的に伸びました。このご時世、「三十にして学に志す」でも、いいんじゃないでしょうか。

 というわけで、今回のお題は「30歳からの学問のススメ」

 …と言っても私は教育の専門家ではありませんから、なにか特別な勉強法を指南できるわけではありません。単に「もういちど中学・高校時代の教科書を読み直してみましょうね」というだけの話です。でも、たったそれだけのことが、面白いんですよ。
「え~、30過ぎていまさら勉強? 意味あんの? だって脳細胞って25歳くらいで成長止まっちゃうんでしょ?」
と皆さん思われるかもしれません。たしかに脳の機能の一部は、歳をとるにつれて確実に衰えていくでしょう。
 
 最も顕著なのが、記憶力。私自身、10代のころと比べると記憶力が明らかに衰えたのを実感します。
 
 本当に、すぐ忘れてしまう。昼間、なにかネタを思いついて「あ、これブログに書こう」と思っても、いざ帰宅しパソコンと向かいあうと「…アレ? 俺、なに書こうとしてたんだっけ」と頭を抱えるというのが、もはや日常茶飯事。皆さんもおありでしょう? そういう経験。イヤですよねぇ。
 
 このように記憶力が低下することで何に一番困るかというと、語学ですね。英語やドイツ語の単語などは、高校生のころは割とスムーズに覚えられたのですが、今では一度覚えても何日か経つとすぐ忘れてしまう。まったく困ったものです。
 
 「30歳からの学問のススメ」と銘打っておいてナンですが、記憶力だけは、どうしようもない、これだけは若いモンにはかなわない、と率直に認めるしかなさそうです。

証明問題が分かるようになった!

 記憶力は、加齢によって衰えてしまうようです。でも、それ以外の能力はどうでしょうか。たとえば、論理的思考能力。

 皆さんは中学・高校のころ、数学の証明問題に悩まされた経験がおありかと思います。
 
 私はね、この証明ってヤツがもう本当に本当に大嫌いで(笑)、
「『二つの三角形が合同であること』なんてどーしてイチイチ証明しなきゃなんねぇんだよ! んなもん、定規と分度器で辺の長さと角度の大きさを確認すりゃ一発だろぉが!」
といつも(心の中で)叫びながらキレていました。

 ところがどっこい、30歳の今になって中学時代の数学の教科書を久しぶりに読み直してみると、不思議なことに、かつてはあれほど苦手だった証明問題がスラスラ解けてしまったのです。

 例えば三角形の合同の証明問題について言えば、まず仮定から等しいことが分かっている辺や角度はどれか。次に、3つある三角形の合同条件のうちのどれが適用可能か。そして、そもそも問題における結論は何なのか(合同を証明すればそれで終わりなのか。それとも、それを利用してさらに辺や角度が等しいことを証明するのか)。このように証明にいたるまでの適切な推論が、頭の中ですんなりと組みたてられるようになったのです。

 年齢を重ねることで論理的思考能力が高まり、証明問題への理解が深まったのですね。
 
 もっとも、これだけでは「いや、それは個人差の問題ではありませんか? 私は歳をとってもやはり証明はニガテです」と反論されてしまいそうです。たしかにそうかもしれません…となんだか不安になってきました(笑)。

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西部邁

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