日本にGoogleが生まれない理由

繰り返される嘆き

 なぜ、日本にGoogleが生まれないのか。世界企業へと飛躍したベンチャー企業への礼賛と、後塵を拝し続ける日本企業と位置づけて、ビジネス誌などで20年以上繰り返し問題提起されています。GoogleをFacebookに置き換えても以下同文。何かと言えば国内の商慣習や、政策、果ては教育システムに問題があると日本を嘆く「自虐ネタ」。なぜなら、世界を見渡せば、Googleが生まれていないのは日本だけではないからです。むしろGoogleらを生み出す「アメリカ」の特殊性に注目すべきでしょう。

 技術だけで見れば、日本にGoogleが生まれない理由はありません。世界的に評価されるプログラミング言語「Ruby(ルビー)」を生み出した「まつもとゆきひろ」氏のような人物もいますし、金融と技術の融合を意味する「フィンテック」においては、日本はアメリカの前を走るトップランナーです。

 「フィンテック」といえば、仮想通貨「ビットコイン」や、そのコア技術となる「ブロックチェーン」ばかりが注目されますが、Twitterの創業者 ジャック・ドーシーが立ち上げた米国スクエア社は、小型の読み取り機をスマホに接続するだけで、クレジットカードで決済ができるサービスを提供し、フィンテック銘柄とされています。ならば電子決済の「おサイフケータイ」は間違いなく「フィンテック」です。

充分すぎる市場の阻害

 「おサイフケータイ」は、いまから12年前の2004年に既に登場しており、その他「ナナコ」や「PASMO」といった電子マネーもあり、つまり日本は「フィンテック大国」なのです。その為「黒船襲来」と喧伝されスクエア社は、国内で苦戦しています。

 私は日本にGoogleが生まれない理由は3つあると考えます。皮肉にも日本がフィンテック大国である理由が、「日本にGoogleが生まれない理由」のひとつ「市場」です。一億人を超える国内市場だけで、充分に利益が稼げることが、世界進出の必然性を薄れさせてしまうのです。高度に進化したガラケーが世界に広まらなかった構図と同じです。ただし、これは国内で健全に経済が回っている証拠で、誇りこそすれ、悲嘆することではありません。

 ふたつ目の理由は、日本のITベンチャー企業には、エンジニア出身の経営者が少ないことです。その為、自社の保有する技術や提供するサービスへの、将来価値を含めた適正な評価ができていないのです。対するアメリカは、先のジャック・ドーシーはもちろん、マイクロソフト、Google、Facebook等々、枚挙に暇がないほど経営者や創業者に伝説レベルのエンジニアが名を連ねます。

地ビール屋「楽天」

 日本のITベンチャーの雄とされる「楽天」は、創業を前に「地ビール」「パン屋」「ネットモール」の三択から「祖業」を選びました。創業者で現経営者の三木谷浩史氏は元興銀マン、大学時代はテニス部。彼の経歴に技術との接点を見つけるのは困難。創業を前に「楽天市場」のシステム開発を、部外者で素人の大学生に丸投げしていたとは、彼らのサクセスストーリーをまとめた書籍『楽天の研究』にあります。

 楽天が産声を上げた頃、米ヤフーの成功に触発され、国内でも雨後の筍ごとく「ポータルサイト(玄関、ネットの入口)」を目指す企業が乱立しました。各社それぞれが「検索機能」を提供していましたが、扱いはポータルを補完するいわば「オマケ」。Googleはこの「オマケ」である検索技術で世界制覇を実現しています。つまり、日本のITベンチャーの経営者は「オマケ」の価値、すなわち「技術」とその「価値」を正しく評価していなかったということです。自社の価値を分かっていない経営者に「世界制覇」などできるわけがありません。

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西部邁

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