TPP協定署名間近の危機感が足りない日本

 チリのDIRECON(チリ国際経済関係総局)総局長や、ペルーの首席交渉官らが、次々と2月4日にニュージーランドで調印式が行われることを認めています。[注1]2015年10月5日に大筋合意の発表があり、続いて11月5日に暫定文書が公開されて以来、詳細な概要が提示されただけで、条文の仮訳が公開されていません。

 国会議員や関連業界、NGOはもとより、TPPを利用せよと言われても中身が分からないのでは利用のしようがないという中小企業などから、政府に対して仮訳を出すよう要求がなされました。一時は年内にも公開されるのではないかと期待したこともありましたが、この原稿を書いている時点でリーガルスクラブ(詳細は後述の甘利大臣の発言をご参照のこと)はまだ終わっておらず、1月中に終わることを目指している状況のようで、2月4日に署名を済ませて正訳を出すまで、日本政府から条文の邦訳が出ることはなさそうです。

「大筋合意というデマ」というデマは何故生まれたのか

 さて、署名間近の差し迫った状況の中、合意から3か月も経とうとしているというのに、未だにTPP協定は合意していないと考えている人が多数いることに驚いています。というよりTPPに反対している人の間では、むしろそちらの方が多いのかも知れません。一部有識者とされる人の中には「大筋合意」という言葉が英語の報道に入っていないので合意したというのは政府の嘘だという主張をされていた方もいたようですが、「大筋合意」という言葉は入っていなくて当たり前なのです。10月5日に出された閣僚声明[注1]には

We, the trade ministers of Australia, Brunei Darussalam, Canada, Chile, Japan, Malaysia, Mexico, New Zealand, Peru, Singapore, United States, and Vietnam, are pleased to announce that we have successfully concluded the Trans-Pacific Partnership.

我々、オーストラリア、ブルネイ・ダルサラーム、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国及びベトナムの貿易大臣は、環太平洋パートナーシップを成功裏に妥結したと発表できることを嬉しく思う。

とあり、「大筋合意」ではなく、「妥結」したと書いてあるのですから。

 11月11日の予算委員会[注2]で民主党の徳永議員からの「大筋合意の意味」について質問した際、甘利担当大臣もはっきりと答えています。

○国務大臣(甘利明君) 合意をしたということです。今何をやっているかといいますと、法的、実務的作業を行っているんです。それは英語で言うとリーガルスクラブと言うんですね。それは日本的に言い直すと内閣法制局の作業みたいなことをやっています。

 ですから、それが済めばきちっとした案文として決着をするわけでありますから、全く、決めなきゃならないことが残っていて、それを決めないと国会にかけられないということではなくて、国会にかける姿にするために法制局的処理をしているということです。

→ 次ページ「2015年10月のアトランタ会合を振り返る」を読む

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西部邁

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