ネット時代における大衆社会批判

日本家屋

かつて、19世紀に生まれたスペインの哲学者であるオルテガは、主著である『大衆の反逆』において、当時のヨーロッパ社会の最も重要な特徴として、「大衆が社会的勢力の中枢に躍り出た」ことであるとし、このような現象を非常に深刻な危機であるとみなし、この現象を「大衆の反逆」と呼びました。

このような分析は、現代の戦後民主主義の時代においては、非エリートである大衆が社会的勢力の中枢に躍り出る、もっとありていに言えば大衆が政治に参加し、決定権を握るという現象や社会制度はむしろ望ましいことであり、それこそが社会の進歩あるいは近代化であるという現代人のほとんどが抱く素朴な信念とは全く対照的であることは言うまでもありません。

大衆はみずからの生存を管理すべきではないし、また、そんなことはできない。

ところで、果たして、このような大衆社会化とでも呼ぶべき現象は、現代においてどのような様相を示しているでしょうか?

結論から述べるなら、現代の高度情報化社会、さらにそれが進んだインターネット社会においては、大衆が社会的勢力の中枢に躍り出る、あるいは躍り出ようとする現象は、ある意味で深刻化し末期的な様相を示しています。マスコミやネット上での特定秘密保護法に対する大反対キャンペーンなどはその最も分かりやすい一面であるでしょう。特定秘密保護法に対する大反対運動を行った人々や団体の心理的な側面については、私のブログ記事(『特定機密保護法案反対デモから逮捕者』 『特定機密情報保護法について・・・ その②』)でも解説を行っているのですが、さらに重要な側面について理解しようとするなら、このオルテガの大衆社会論は非常に重要な示唆を与えてくれるように思います。

つまり、オルテガは『大衆の反逆』において

大衆はみずからの生存を管理すべきではないし、また、そんなことはできない。まして、社会を支配するなど問題外である。

と述べていますが、まさに、社会とは、少数のエリートによる寡占的な支配ではなく、民主的なプロセスによって、もっとありていに言えば、大衆という社会の多数派の合意によって管理されるべきであるという、如何にも戦後民主主義的な価値観、及び信念が否定されることに対してこそ、特定秘密保護法の反対運動を行った人々は拒否反応を示したのでしょう。

しかし、オルテガは先の文章に続けてさらにこのように述べています。

だから、右の事実(大衆が社会勢力の中枢に躍り出たこと)は、民族、国家、文化が忍びうるかぎりの深刻な危機に、ヨーロッパが現にさらされていることを意味する。

おそらく、特定秘密保護法に対する反対運動に関わった人のほとんどは、「我々こそ、近代の民主主義的価値観を守らんがための正義の使者である」というご大層な大義名分と使命感を抱いて運動を行ったのかもしれませんが、はっきり言って、かのような運動はオルテガに言わせるなら、その運動自体が深刻な危機の一現象に過ぎないということです。

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西部邁

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