安倍晋三と書いて、新自由主義者と読む

第三の矢は、日本人の頑張りを、日本人が受け取れないようにする政策だ!

 先の動画内でも述べているように、グローバル化が進んだ開放経済では、より外に経済が開かれているほどに第二の矢つまり財政出動の効果が減殺されます。「現在の日本の状況ではマンデルフレミング効果は確認できない」と主張する論者ですら、この点に関しては否定できない事実でしょう。仮に、財政出動を行って内需を拡大させたとしても、海外からの安い製品を大量に輸入して海外にお金が流れ出てしまっては、せっかくの第二の矢の効果も薄れてしまいます。

 18世紀の保守思想家であるサミュエル・テイラー・コールリッジは、一国の経済を南欧の造園に例えていますが、その例えに倣うなら、この開放経済のイメージは、水を流してやっても上手く全体に行き渡らず、むしろ水が溢れて外に流れ出てしまうようなイメージでしょうか。何も「だから、今すぐ日本は鎖国しろ!!」などと言うつもりもありませんが、財政出動の効果を最大限に生かすためには、一定に秩序を持った規制が必要であると思われます。

 そして、次に問題にしたいのが、成長戦略の一環である外国人労働者の受け入れです。
 現在、政府では、建設産業の労働力不足を理由に移民労働者の受け入れを検討していますが(外国人労働者と移民は違うと主張する方もいますが、これは全く同じものです詳しくは私のブログ記事『安倍首相「移民問題と外国人労働者受入れは違う!!」の大嘘』で解説していますので、参照して頂ければと思います)、せっかく国内に存在する雇用を生み出す需要を、外国人に渡してしまうのは全く愚かな政策としか言いようがなく、現在の世界的に需要不足の、どの国も飢えた肉食獣のように他国を食ってやろうと戦々恐々の状態に陥っている中、養豚場からなんにも知らない豚ちゃんが出てくるように、みすみす海外に富を渡してしまう政策を大上段から、しかも胸を張って朗々と言い出すなんて正気の沙汰ではありません。

 さらにもう一つ重要なのは、TPPの政府調達分野の非関税障壁の撤廃です。これは廣宮孝信氏の著書『TPPが日本を壊す』で詳しく解説してあるのですが、TPPに加入すると、それまではWTOのルールにより、外国の建設業者が国内の公共事業の入札に参加可能な条件は19億円以上の事業に限られていましたが、この制限が6億3千万円以上に引き下げられます。

 つまり、せっかく復興やオリンピックによる建設需要を活かして内需を拡大させようとしても、その仕事を海外の企業に奪われてしまう可能性があるのです。最近では、重要五品目の関税に関する問題に注意が集中していますが、このような非関税障壁の分野にも注目していく必要があるでしょう。そういった意味では、TPP交渉に関して過度にわかりやすい関税の問題ばかりに注目している状況は危険であるかもしれません。

安倍政権との距離感を慎重にはかろう

 現在、安倍支持者の中には、おそらく大きく分けて、二種類の人たちがいて、一つはいわゆる保守的な政策、憲法改正や自主防衛体制の確立といった問題に関心を持っている人々、そして、もう一つが、アベノミクスによる経済政策に期待する人たち、あるいはその両方の方もいるでしょうが、残念ならが、私はどちらの意味においてもあまり安倍首相を積極的に支持することができません。

 もちろん、安倍政権の誕生時の理念は評価します。憲法改正への道筋をつけたこと、自主防衛の重要性を国民に広く認識させたこと、経済政策に関してデフレ脱却を最優先の課題として位置づけたこと。これらに関しては大変高く評価されてしかるべきでしょう。しかし、その後の問題を考えると、前者の憲法改正と自主防衛はこれから、2、3年の間にすぐに解決できるような課題ではありませんし、後者の経済政策に関しても、一方で内需拡大の政策を行いながらも、他方で、みすみす日本の富を海外に流出させてしまうような数々の政策を実行しようとしてます。

「このような困難な課題に取り組んでいるからこそ安倍首相を応援すべきだ!!」というような意見に一理あることを認めないわけでもありませんが、一方で同時に、安倍支持、不支持とは関係なしに、非常に厳しい目をもって、安倍政権を見守り、評価していかなくてはならないだろうと私は考えます。

固定ページ:
1

2

西部邁

高木克俊

高木克俊会社員

投稿者プロフィール

1987年生。神奈川県出身。家業である流通会社で会社員をしながら、ブログ「超個人的美学2~このブログは「超個人的美学と題するブログ」ではありません」を運営し、政治・経済について、積極的な発信を行っている。

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

    • t
    • 2014年 12月 17日

    政治家がこう言ったと、素直にとるのは子供っぽい。
    政治家がずうずうしくウソをつくのも芸のうち。
    目を見て判断する位しかないと思う。

    • あああ
    • 2015年 6月 10日

    >裁量的な財政政策と金融政策の有効性を否定した
    よく知りませんが”裁量的な”が財政政策と金融政策の両方にかかってるんじゃないんですか?
    マネタリズムは金融政策をルールに基いてやれというものでフリードマンは財政政策も負の所得税や教育バウチャーなど機械的に行われるようにしろって話だったと思いますが。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 2015-7-24

    ラムズフェルド回顧録

    「真珠湾からバグダッドへ ラムズフェルド回想録」書評  政治家と政治学者。  ともに政治に対…

おすすめ記事

  1. 「日本死ね」騒動に対して、言いたいことは色々あるのですが、まぁこれだけは言わなきゃならないだろうとい…
  2. ※この記事は月刊WiLL 2015年1月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ 新しい「ネ…
  3. 多様性(ダイバーシティ)というのが、大学教育を語る上で重要なキーワードになりつつあります。 「…
  4.  経済政策を理解するためには、その土台である経済理論を知る必要があります。需要重視の経済学であるケイ…
  5.  現実にあるものを無いと言ったり、黒を白と言い張る人は世間から疎まれる存在です。しかし、その人に権力…
WordPressテーマ「SWEETY (tcd029)」

WordPressテーマ「INNOVATE HACK (tcd025)」

LogoMarche

TCDテーマ一覧

イケてるシゴト!?

ページ上部へ戻る