憲法9条をノーベル賞にしようという運動について・・・

憲法9条にノーベル賞を!! 主婦が思いつき、委員会へ推薦

 戦争の放棄を定めた憲法9条にノーベル平和賞を――。
神奈川県座間市の主婦鷹巣直美さん(37)が思いつきで始めた取り組みに共感の輪が広がり、ノルウェー・ノーベル委員会への推薦に至った。
集団的自衛権の行使や改憲が議論される中、「今こそ平和憲法の大切さを世界に広めたい」と願う。

なにやら、最近左翼活動家の間で、憲法9条にノーベル平和賞を与えようという動きが活発化しているそうです。

しかし、なんとも呆れてしまうのは、反米的な姿勢を貫こうとしていた左翼の側が、よりによってそのアメリカから推し頂いた憲法をノーベル賞化しようと頑張っている点でしょう。

日本の平和が保たれてきた原因は憲法9条ではない

もっとも、戦後の左翼は元来、敗戦後のGHQによる占領によって日本に平和主義や民主主義がもたらされたという歴史観をもっていることを考慮するなら、果たして左翼が本当に反米であって、親米的な戦後保守と本質的な対立関係にあったのかという問題に関しては相当に疑問ではあります。むしろ、同族嫌悪、あるいは近代主義、進歩主義という点で概ね一致していた同志が、社会主義的な近代主義を選ぶか、もしくは資本主義的な近代主義を選択するかという方向性の違いによって、似た者同士の間で仲違いをしていたというのが実情かもしれません。

さらに、疑問なのが、仮に(そもそも、そんなことが可能なのか相当疑問ですが)憲法9条にノーベル平和賞が与えられるようなことがあれば、それはほとんど軍事的には万年アメリカの属国化を意味するのですが、反米的な左翼の人達にとってそれでオッケーなのでしょうか?アメリカにあげているようなものです。

言うまでもなく、軍事力の放棄とは、平和を意味するわけではなく、軍事力を持った他国からの侵略もしくは属国化への道に過ぎません。護憲派の平和主義の人たちの中には、日本の戦後の60年以上続いてきた平和は憲法9条のおかげだと考える人も多いですが、本来、日本における戦後の平和とは、冷戦構造によってもたらされた特殊な地政学的条件と、アメリカへの軍事的な依存と従属という特殊要因のもとで成り立ってきたものであり、実際には九条となんの関係もありません。

そのような意味において、反米と戦後の平和(もしくは平和主義)の礼賛という矛盾した姿勢を平気で取り続けることになんの精神的苦痛も感じとれない戦後左翼は、ほとんど思想的な不感症なのではないかと思います。

現在の日本の平和はアメリカという親玉に米国債の購入というカタチで上納金を払って守ってもらっているようなものです、そして問題なのはその親玉であるアメリカは世界中に軍隊展開して戦争しまくっているということです。つまり、日本はアメリカにカネ払って戦争させまくり、世界最強の軍事力持たせることで自国の(見かけ上の)平和を保っているに過ぎないのですが、9条絶対主義的な左翼は「私達は素晴らしい平和憲法によって平和を維持しています」とやっている・・・。

このように考えれば、戦後日本の平和主義というものが如何に偽善的で、唾棄すべきものでしかなかったということが理解できるのではないでしょうか。

さらに、このようなノー天気な9条信仰は、現実に存在する重大な危機を見落とすという問題を発生させます。つまり、戦後冷戦の構造において、アメリカは日本に防共の砦となってもらうために、強く豊かな国であってもらう必要があり、さらには、その砦である日本が侵略されないために、強固な軍事同盟を結ぶ必要があった。つまり、アメリカは自国の国益、そして国防上の重要な拠点として日本を守る必要があったわけです。

しかし、冷戦が終結したことによって、日米の軍事同盟の価値や意味付けは大きく変化しもしくは形骸化、無意味化したといってよいでしょう。ありていにいえば、もはやアメリカにとって自国の国益上、また国防上、日本はどうしても守らなければならない重要拠点ではなくなってしまったのです。

→ 次ページ:「況を見ず、物語に惑溺する皆さん、ご愁傷さまです。」を読む

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西部邁

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コメント

    • 左翼革命ソ連好き、リベラル中朝は嫌い
    • 2014年 5月 11日

    私は左翼の改憲派です。自衛隊の存在は憲法に明記するのが当然です。

    ところで中曽根康弘さんや小泉純一郎さんは親米ですが、ほかの保守はソ連にも優しかったと思いますよ。特にソ連寄りの中川一郎氏は情に厚い立派な方でした。むしろリベラル進歩の田英夫さんたちこそ一方的にソ連を叩き、中国を礼賛していたじゃないですか。

    冷戦は自由主義と社会主義の対立なんてもんじゃなかったですよ。むしろ中ソ対立のほうが先鋭化していた。特にカンボジア内戦は酷かったですよね。あの時アメリカは原始共産主義のポル・ポトを支持したんですから。アメリカは民主思想じゃなくて損得勘定で動いているだけ。中国がインドを攻撃した時、ソ連はインドに味方した。ダライ・ラマも訪ソしている。そういう時代ですよ。

    世界中の知識人と凶暴なテロリストがソ連を攻撃しているときに、損得抜きでソ連と交流していた人たちは右派であれ左派であれ中道であれ尊敬に値します。

    • eegge
    • 2015年 1月 09日

    鷹巣直美様

    日本から国際社会を見るだけではなく、国際社会から日本を見る眼も養って欲しい。貴方の運動は国際社会には全く通用しない。九条は論理的に破綻しているだけではなく、「偽善」です。

    そもそも平和や戦争といった概念は関係・対立する他国の存在があって始めて成り立つ概念です。九条の「一国平和主義」は正常な論理的思考としては決して認められるものではありません。国際社会は「自力救済社会」であるという認識が全く欠如しているのです。

    九条は実質的に日米安保と一体になっているという事実を隠して(認識せず)、九条の綺麗な条文(文言)だけを吹聴するのは偽善です。

    九条の論理破綻と偽善を国際社会に吹聴するのは日本の恥以外の何ものでもありません。日本人の知的レベルや倫理が疑われるような運動は厳に慎んでもらいたい。

    • 反米親露保守の時代へ。
    • 2015年 4月 29日

    9条もマララもノーベル平和賞にふさわしくないです。
    寧ろ、ノーベル平和賞にはアメリカの盗聴実態を暴いてくれたエドワード・ジョセフ・スノーデンさんの受賞が相応しいです。
    エドワード・ジョセフ・スノーデンさんの本を読んでおくと彼がノーベル平和賞にふさわしい人物なのかが解ります。
    最も、孫崎享さんや落合信彦さんが述べているようにノーベル平和賞そのものが疑われるように感じます。
    特にオバマとEUの受賞は疑われる。

    更に一部の左翼が中露の時代と言うが、AIIBはTPP及びTTIPの中国版であり加盟国にイスラエルやサウジアラビア、トルコ等のISISを支援している国家が多いです。
    更に、ウクライナも参加検討しているので極めて疑わしいのです。
    更にTPPやTTIPと同様にISD条項(ISDS)が含まれている可能性も否定できず、中東の戦争に金が流れる恐れがあることも否定できません。
    そもそも中国賛美主義者は全体的に親米・反日・反露・反イランが多いように感じます。
    つまり、中国は遷座的なアメリカ依存が強いのです。
    おまけに中国はアメリカの経済属国だから、経済的な反米を持つロシアとイランとは相成れないのです。

    だから中露の時代よりもロシアとイランによる本物の反米連合で米中に対抗していかなければならないと感じる。
    本当の意味で平和を得るには日米安保条約を破棄と日露安保条約の制定が必要だと思います。

  1. 2014年 6月 21日

  1. 2014-12-24

    『永遠のゼロ』を私はこう見る

     当サイトに、藤井聡氏のエッセイ「永遠にゼロ?」(2014年9月9日 三橋経済新聞掲載)に対する木下…

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